第5話 不良学生殺人事件⑤

 小手川は教師達のアリバイを調べることとした。


 その犯行時間、職員室や他のところでアリバイのある人はともかく、それがない人が犯人であると考えるのが有力だろう。そうして、小手川は見つかった三人の教師に事情を聴いた。


 まずは、小柄な女性である。丸眼鏡をかけており、ぱっと見気のいいおばちゃんにも思える。


「国語の三守恵子です。あの時間は研究室で翌日の授業準備をしていました」


「まあ、私は新崎君の担任ではありませんし、名前もそんなに知りません。でも、またこんなことになったのは動揺を隠せませんね」


「またとは」


 本多がその言葉に引っ掛かりを覚えて尋ねる。


「昔、うちの生徒が突然失踪しまして。以来見つかっていないはずですが」


「そうだったのか。後で調べてみましょう」


 小手川は頭を下げる三守に対して言った。三守を見た印象だが、あの体格で相手が丸腰で不意を突いたとはいえ男子高校生と正面から戦えるだろうか。ただ、かつて名虎高校で何かしらあったことが、鍵になるのかもしれない。




「次は美術の寅井先生ですね。トイレに行っていたそうです」


 そこにほっそりした男がやって来た。


「寅井ですが、私が犯人だと疑われていますか?」


 寅井は小手川にそんなことを聞く。


「いえ、別に皆さんのその日のアリバイを聞いているだけで、特に疑わしいとかいうことではありませんよ」


 小手川は表面上そう取り繕った。


「あの時間はトイレに言った後ずっと美術準備室にいましたよ。部活は休みだったので生徒の作品のチェックをしていました」


 これももっともらしくもあり、それなりに疑わしい。特に証明することが出来ないのだから。とはいってもそんな理由ですぐ犯人の手に手錠をかけるほど、小手川も落ちぶれてはいない。何か気づくことが難しいものが隠されている可能性もある。


「これ以上聴くことはありませんかね」


 寅井は左手でスマホをいじりながら、小手川に答える。この期に及んで余裕があるようにも見えなくもないが。




 最後はがっしりとした男性である。


「権田忠彦です。名虎高校では体育を教えていますが、ほんとに悲しいですね。新崎は運動部期待の星だったのに」


 権田はハンカチで顔を拭う。こんなにがっしりしている男でも意外に涙もろいのだろうか。


「で、野球部の顧問ならアリバイがあるのでは」


 小手川が本多に聞く。


「いや、それがこの人。部活中激怒していったそうで、アリバイがないんですよ」


 すると、権田は


「ええ、たらたらしていたので、耐えかねて活を入れてやったんです。甲子園も近いですし」

 つまり、犯行時刻に合わせて何らかの言いがかりをつけることも可能ではないだろうか。


「何かおかしく思ったことはありますか?」


 本多が権田に尋ねてみる。


「そうですね。仕事柄よく校庭を見て見るんですが、どこか違和感があるんですよ。壁のあたりに」


 そんなことを言われてもこちらが困る。どこの違和感か言ってもらわないと。ただでさえ鑑識は困っているのに。そんなことを腹の中に入れながら、小手川は所轄に去っていった。

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