第15話 初めての叡智の神殿。
私たちは熊と小鳥亭のそれぞれの部屋で少し休憩した後、叡智の神殿に向かうことにした。
叡智の神殿は領都の中央エリアにあり、本殿の他に5つの小殿があった。小殿は、新たな信徒を受け入れる神殿、信徒にスキルを与える神殿、信徒の治療をする神殿、信徒のみ使える貨幣預かり受け渡しのための神殿、信徒は無料で利用できる商品登録関連の神殿に分かれているらしい。
この世界にも銀行っぽいところってあるんだなー。
凛々子はお年玉を貯金する銀行口座がある。ママが管理してるから、たぶん凛々子になったティナも使えると思うんだ。銀行口座には6万5千円くらいあった気がする。
新たな信徒を受け入れる神殿に到着した。看板がある。『叡智への門』だって。
小殿の入り口には数人が並んでいる。数えてみたら、7人だった。朝早くというわけでもないのに、叡智の神様の信徒希望者って多いんだなあ。
「用事が済んだら、なんか食おうよ。腹減ってんだ」
列の最後尾に並んで待っていると、お兄ちゃんが言う。確かにお腹は空いている。
「そうだな。宿で食事もできると思ってたんだが、おかみさんが骨折してるなら無理だしな。屋台で何か買って帰ろう」
「やったあ!!」
「嬉しいっ」
お兄ちゃんと私は、その場で小さく飛び跳ねた。叡智の神殿に来るまでに通り過ぎた屋台からはいろいろなおいしそうな匂いがしていた。肉を焼く匂い、甘い匂い。
領都での衣食住はジグさんの奢りなので、お金の心配をしなくていいのも嬉しい。
お母さんが、お兄ちゃんにお金が入った皮袋を持たせてくれたけど、ティナのうちはお金が無さそうだから、なるべく無駄遣いはしたくない。
ジグさんは、私のアイディアでハンガーの商品登録をするんだから、アイディア特権で奢ってもらってもいいと思ってる。私が叡智の神様を信仰できれば、商品登録とかも自分でできたかもしれないけど……って、こんなこと考えたらダメだよね。ごめんなさい。運命の女神様。
運命の女神様が連れてきてくれたおかげで、私はティナになれて、今、優しい家族に出会えて楽しく過ごせてるんだから。運命の女神様、感謝しています。ありがとうございます。
でも、いろんな神様や女神様を信仰できたら、いろんなスキルが貰えてすごく便利だと思うんだけどなあ。そう思うだけでもダメかなあ。ダメだったらごめんなさい。運命の女神様。
考えごとをしたり、お喋りをしているうちに、緩やかに列は進む。
列に並んでいるのはお兄ちゃんやティナと似たような年齢の子もいれば、お姉ちゃんより年上に見える人もいる。さすがに大人はいないけど。
受付には神官服を着た初老の男の人がひとりと、彼の両脇に騎士のような男の人がひとりずつ立っている。神官の男の人が信徒希望の人をじっと見て、それから神殿内に進む許可を出しているようだ。
そこそこ綺麗な皮鎧を着た少年が受付に立つと、彼を神官が眉をひそめた。神官が右脇にいる騎士に視線を送ると、騎士は肯いて皮鎧を着た少年を拘束する。
「何すんだよ……っ!!」
皮鎧を着た少年は暴れていたが、問答無用で騎士に引きずられて去ってしまった。
「『人物鑑定』でダメだった奴だな」
すでに叡智の神様の信徒になっているジグさんが眉をひそめた。
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