第6話 運命の女神様と話す方法を考える。
ルドラの森に着いた。
「紫蘇は、これだよ」
私は小道沿いに無造作に生えている紫蘇を見つけてしゃがみ込み、ちぎったてお兄ちゃんに差し出す。
「匂い、嗅いでみて」
お兄ちゃんは私から受け取った紫蘇の葉を鼻に近づけた。
「独特の匂いがするな」
「だからわかりやすいでしょ? 間違えちゃってもお母さんが見分けてくれるから平気だし」
「そうだな。どんどん採るぞ。注意して見ると、シソって結構いっぱい生えてるからたくさん採れるよなっ」
テッドは背負い駕籠を地面に置いてしゃがみ込み、両手で紫蘇の葉をちぎり始めた。ワイルド。
私はテッドから少し離れたところで紫蘇を探す。
そうだ。今はテッド以外に人がいないし、ステータス画面を見てみよう。
私は『ステータス画面を見たい』と念じながら嵌めている錆びたブレスレットに触れた。目の前に半透明の画面が現れる。
■■■
ティナ・バローズ 8歳
運命の女神イリューシャの使徒
運命の女神の女神の信仰値 32
運命の女神の信徒 2名
■■■
信仰値が増えてる。私が祈った回数よりずいぶん多い。凛々子の身体に入ったティナも祈ってくれてるのかも。
でも、この画面を見てもスキルって無いよね……?
運命の女神様がすごい力を持ってるのは知ってる。だって、私とティナの身体を入れ替えたんだよ。しかも違う世界にいる二人を交換したなんてすごいよね。
運命の女神様は私に仲の良い両親をくれて、ティナに本を読んで勉強することができる環境をくれた。
たぶん、スキルっていうのは神様や女神様の信徒になって、信仰を高めて、それで貰えるんだよね。
神様や女神様の信徒になるためには神殿に行かなくちゃいけない。
だけど運命の女神様の神殿は無い……。
もしかして、あの崩れかけた石造りの建物が、運命の女神様の神殿なの?
信徒が私とティナしかいなくて、錆びたブレスレットが崩れかけた石造りの建物に放置されていた。もしかして、運命の女神様を信仰していることを黙っていた方がいいのかな。運命の女神様と話すことはできないのかな。信仰値を上げればお話できるようになるのかな。
信仰値を上げるには、祈るほかにはどうしたらいいだろう。運命の女神様を信じる信徒を増やせばいいのかなあ。でも、私と日本にいるティナ以外に誰も、運命の女神様を知らないっぽいし……。
私は目についた紫蘇をむしりながら、信徒を増やす方法を考える。
私の言葉を信じてくれるのは、やっぱり家族……? だけど、ティナの家族はティナがどんなに本を読みたいと言ってもわかってはくれなかった。
とりあえず、採った紫蘇の葉を背負い駕籠に入れに行こう。立ち上がり、腰を伸ばす。足がちょっと痺れてる感じがする。足首を回しながらお兄ちゃんの姿を探すと、彼は小道を離れたところで紫蘇をむしっていた。
森で迷子にならないように、小道を外れてはいけないとお父さんやお母さんに注意されているけど、夢中で採集しているとつい、忘れちゃうよね。
テッドが紫蘇を採っている場所からは、崩れかけた石造りの建物が見えるかもしれない。お兄ちゃんを、ティナが錆びたブレスレットを拾ったあの場所に連れて行ってみようか。
「お兄ちゃん」
私はしゃがんで紫蘇を採っているテッドに声を掛け、彼の側にある背負い駕籠に両手で持っていた紫蘇の葉を入れる。紫蘇の葉や、紫蘇じゃなさそうな葉っぱで背負い駕籠の三分の一くらいが埋まっている。
「小道を外れちゃうけど、あっちの方にも行ってみる?」
私は、ティナが錆びたブレスレットを拾った崩れかけた石造りの建物がある方向を指さした。
「行ってみようか。シソがいっぱい生えてるかもしれないしなっ。でも母さんと父さんには秘密だぞ」
「うんっ」
テッドは私の話に乗ってきてくれた。崩れかけた石造りの建物を見せたからって、お兄ちゃんを運命の女神様を信じてもらう方法なんて、全然考えつかないんだけど。
テッドは背負い駕籠を背負い、私と手をつないで歩き出す。小道の方向を何度も確認しながら歩いているので、無鉄砲なだけじゃないんだなとちょっと感心した。
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