おまけ

高校に入学して数日たった放課後。



帰る準備をしていたら、ネクタイがやけに緩んでることに気づいた。

結び直そうとしたら、横から手が伸びてくる。


「ちょっと。下手くそ。見てらんない」


Aは当然のように俺の正面に立ち、襟を整え、器用にネクタイを引き締める。

周りの視線がちらほら集まってくるのがわかる。

でもAはまったく気にせず、距離ゼロで手を動かし続けた。


「……ほら。できた」


「ありがとな」


礼を言いながら、俺は無意識にAの顎下から頭をなでていた。


ぽんぽん、なでなで。

すると──



「ん゛にゃ゛あ゛あ゛あ゛っ゛っ゛!!!」



教室に、尻尾踏まれた猫みたいな奇声が響き渡った。

一瞬、シーンとする教室。

次の瞬間、クラス全体がざわついた。



「え、今の声なに」

「猫?いや人だろ」

「え、A?今のAの声!?」



Aの顔は真っ赤。

そして──


「……死ねぇっ!!!」


ぐいっとネクタイを掴まれ、首が絞まる。


「ぐ、ぐえええっっっ!!つ゛ま゛る゛!!し゛ぬ゛!!」


「わざとでしょ!?この変態!!!」


「ち、ちがっ……無意識でっ……!」


必死に弁解するが、ネクタイはさらに強く引かれた。

周りのクラスメイトは爆笑。

「カップル喧嘩始まった!」とか「公開処刑だな」とか、声が飛び交う。


やがてAはふんっと手を離し、ぷいっとそっぽを向いた。

机にプリプリと鞄を叩きつける。


「もう!絶対触んな!!」


そう怒鳴るくせに、その手は机の下で俺の指を探してくる。

俺がそっと指を絡めると、Aは頬を赤くしたまま睨み上げてきた。



「……二度と無意識でやるな。

やるなら、ちゃんとあたしに言ってから」


「……了解」



口ではツン。態度は真逆。

Aは指を強く絡めたまま、結局離さなかった。

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