深夜のコンビニで私の世界が変わった話

第2話 謎の男の秘密

店内に3人の客を残したまま、謎の男にバックヤードに連れ込まれた。

その男は小窓から店内を覗きながら私に言った。

「おい、店内を見てみろ」

女性店員は恐る恐る小窓から店内を覗いた。

先程までと変わらない店内。

静かに流れるBGM。

お客さんも3人いる。

そうだ、このお客さんに異常事態を知らせたら、私助かるかも！

だけど・・・、何か変だ。

そのまま小窓から男と店内の様子を見ていると、ひとりの客が震えだした。

震えは連鎖するように他の客にも伝わる。

店内にいた３人の客は震え、倒れ、痙攣をおこしていた。

そのまま動かなくなる。

しかも、その体はまるで砂の彫刻が崩れるようにサラサラと砂山へと変わっていった。

先程まで店内にいた3人のお客さんの姿はもう無い。今あるのは3つの砂山だけだ。

女性店員は驚き言葉を失った。

「こ、これは一体？！」

男は小窓から離れ、女性店員を見つめて話を始めた。

「これは、この世界を滅ぼす為に侵攻している大魔王、ダークサタンの仕業だ。」

女性店員は話について行けない。大魔王？　世界を滅ぼす？

一体この中年男は何を言っているのだろうか。

そんな話を誰が信じるのだろうか。

男は話を続けた。

「私は、その大魔王の侵攻から逃れながら、この世界を一緒に救う人物を探していた。

数えきれない程の人々に会ったのだが条件に合う人はおらず・・・。

大魔王の侵攻の手は止まる事を知らず、この世界が滅びに近づいた。

そして最後にたどり着いたのがこの店だ。」

女性店員には意味が分からない。

「そして、やっと世界を一緒に救える条件に合った人を見つけたのだ。それがあなたです！」

やっぱり意味が分からない。

男はハッとし、話を続けた。

「自己紹介が遅れて申し訳ない。私の名前はリヒテッド。この世界とは異なる世界線で勇者をしている」

女性店員は言葉が出ない。

自称勇者に尋ねた。

「勇者ってアニメとかで出てくる、あの勇者？！」

自称勇者は大きくうなずいた。

「そうだ。私があの歴代勇者でも最強と言われている、あの伝説の勇者リヒテッドだ！」

「いやいや、そんな勇者、知らんって！ 」

女性店員は大きく横に首を振る。

「どう見ても、私の目の前にいるあなたは、単なる小太り中年だよ。二重の意味で驚きだよ」

自称勇者は困ったように答えた。

「といっても、私は勇者なのだけども・・・。」

女性店員は呆れながら尋ねた。

「第一、勇者って伝説の鎧とマントを着て、聖なる武器を持って、高身長で、美形で、金髪碧眼で、微笑むと光り輝くので、周りの女性が虜になるんでしょう？？」

自称勇者は目を見つめ微笑んだ。でも目が死んでいる。笑顔に輝きが無い。

「もし、この世界で鎧や武器を持って歩き回っていたらどうなる？」

女性は気づいた。

「警察通報案件ですね」

自称勇者はうなずく。

「そうです。一発で逮捕です。また長身で美形、金髪碧眼という物語にも出てくる若い男性が街を歩いていたらどうなりますか？」

女性は納得し始めていた。

「そんな人が、この近くを歩き回っていたら、目立ちますよね」

自称勇者はうなずく。

「そうなんだ、一般的な勇者像では私があまりにも完璧な存在であるため、目立ってしまうんだ。しかもこんなに美形だと、すれ違う女性すべてを魅力してしまい大変な混乱が起きてしまう。写真撮られSNSにアップされたら、もう最悪だ。大魔王に私の居場所も知られてしまう」

と不細工な中年男がいった。

女性店員は自意識が高い勇者の発言にイラっとしたが、一応納得した。

「なら、その大魔王から逃れる為に、美形な勇者は、あえて不細工な中年男に姿を変えて逃げているって事で認識OK?」

自称勇者は首を傾げた？

「不細工？？　いやいや、十分この姿はイケメンだろう。こっちの世界線に合わせたカッコよさを追求したまでだ！この世界に来た時に、夜に駅前でフラフラ歩いていた男性を最初に見た。それを参考にしたのだが！」

女性は思った。それ、仕事帰りの酔っぱらいサラリーマンだ。

確かに家族の為、会社の為、社会の為に身を削って働き、帰宅時に唯一楽しみの居酒屋。

確かに、生き方は格好いい。私は少し恥を感じてしまった。

本当に皆さま、ありがとうございます！

「確かに、こちらの世界ではカッコイイですよ！」

と親指を立てて自称勇者へ「いいね」と合図した。

自称勇者も理解してくれた事に、満足したのか笑顔で答えてくれた。

でも目は死んでいた。

女性店員は質問した。

「でも勇者さん、あなたがそんなに最強の伝説の勇者なら、逃げ回らずに大魔王を倒せば良くないですか？」

勇者は答えた。

「この大魔王の侵略を止めることは非常に難しいのだ。すでにこのお店以外の場所は全て侵攻が完了している」

女性店員は言葉を失った。

「ということは、今この世界で生きているのは、わたし達だけですか」

勇者は静かにうなずいた。

女性店員は口を押え、溢れてくる涙をこらえていた。

「でも、大丈夫だ。この勇者と君がいる限り、大魔王を倒し今まで通りの世界へ戻すことが出来る」

勇者の顔は自信に満ち溢れていた。

勇者は続けた。

「私一人では、魔王を倒すことも、世界を戻すことが出来ない。その為にはあなたの力が必要なんだ！　どうか、私と一緒にこの世界を救ってくれ！」

その勇者の言葉は、まるで稲妻に打たれたように私の全身を衝撃が駆け巡る。

（私がこの世界を救う？　映画やアニメだけの話かと思っていたけど。わたしが行動しなければこの世界が本当に終わってしまう！！）

女性店員の瞳からは世界を救うという純粋な強い決意により輝いていた。

「わかりました。わたし、この世界を救います！」

と目が死んでいる勇者へ伝えた。

決意のある輝きの目で勇者に尋ねた。

「それで、大魔王を倒す方法と世界を救う方法を教えてください！」

「大魔法は、私の魔術で倒せます。その時、私の手を握ってくれるだけでいいです。」

女性店員は安心して答えた。

「それだけで良いのですね。それなら私でも出来そうです！」

「その次に、この世界に失われた人々をよみがえらせる方法ですが、これも私が魔術を唱えます。私が持参した魔道具を詠唱して振ってください。詠唱は短いのですぐ覚えられます。魔道具を振るタイミングも私が合図しますのでこれも簡単です。」

女性は真剣なまなざしで答えた

「分かりました。私にもできそうです。一緒に世界を救いましょう！」

「はい、救いましょう！！」

女性は、思い出したように尋ねた。

「ところで、私のどこが世界を救う条件に当てはまっていたのですか？」

勇者は答えた。

「人それぞれ精神力に色と量があり、その両方が条件に合致する必要があります」

女性店員はうなずいた。

「その精神力というのが、私がぴったり合っていたという事ですね」

「そうです。そしてさらに大切な事なのですが、世界で失われた人々の数が80億人なのです。その数字の半分の数字40億、つまり体重が40kgで年齢がその半分の20歳でなければならないのです。これが絶対条件です！」

女性は照れくさそうに答えた。

「すみません、体重サバ呼んでまして、本当は45kgです。テヘッ！」

勇者は固まった。

そして、次の瞬間、世界は滅んだ。