眠れない夜、寄り添う彼

@moonopal

第1話

夜、布団に入ってもぐるぐると考えが頭を巡って眠れそうもない。


今日は上司に怒られた。新卒で入った、憧れの会社だ。

自ら希望して入ったのだから、弱音は吐きたくない。

でも、それも限度というものがあるんじゃないか、とも同時に思う。


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上司から「困るよ、これぐらい分かってもらわないと」と言われた。

知っている。自分でも分かっているのに...

ここのところ、こんな調子で上司から怒られている。

もう入社して1年が経とうとしているのだから、それも当然である。


怒られて自信がなくなって、今まで出来ていたこともできなくなって、また上司に怒られる。そんなことの繰り返し。


大学での専門は神経科学だったが、金融の専門職として金融業界に飛び込んだ。

未経験の仕事、求められる高度な専門性、上司からのプレッシャー...etc.

色々なものが押し寄せてきて、涙が溢れる。


隣で眠る彼を起こさないよう、息を潜めて涙を流す。


「どうしたんですか?」


....バレてしまった。


「ううん、何でもない...」

鼻を啜りながら言われても、全くもって説得力がないのは私も分かっているのだが。

それでも無駄に色々聞いてこない辺り、彼はよく分かっているんだと思う。


「なるほど...」

彼も大学に研究に忙しく、明日も早いと聞いた。迷惑は掛けたくない...

彼は、私の方を伺い、考える素振りを見せる。


「こっち、来ますか...?」

彼らしい、控えめな提案。


私は彼に抱きついてボロボロ泣く。


「あのね、今日ね、上司に怒られたの。

これくらい出来てくれないと困るって。分かってる。精一杯やってるの。

でも、元々専門じゃないから難しくて、そんな自分が情けなくて不甲斐ない...」


彼は、私の背中をさすりながら静かにしている。


「僕がこんなこと言うのも、かもしれませんが。

よく頑張っていると思いますよ。一番近くで見ているので、分かります。」

その言葉に私はまた号泣する。


彼が少し困ったように笑った気配がする。

「もうやだー」

涙が止まらない。


彼の手は静かに背中をさする。

そのリズムに少しずつ心が落ち着く。


「...ありがとう。だいぶ落ち着いたかも。」


彼は安心したような表情で

「いえいえ。いつも出来る先輩が頼ってくれるなんて嬉しいです。」

と言っている。


「もう... 大好きー!」

そう言って飛びつく私を、若干驚きながらも受け止めてくれる辺り、大好きだ。


彼は控えめな笑顔で

「僕も好きですよ。」

と言う。


「...もう大丈夫そうですか。」

彼が私の顔を覗き込む。


「うん、明日も頑張る!」

そんな彼に、頑張ろうと思える。


彼の胸におでこをすりすりしながら、腕の力を強める。


きっと私は彼のことがずっと大好きだ、そんなことを思いながら、気づけば眠りについていた。

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