第4話 おっさん、死にかける

この無法地帯『リスク』では、強力な異能を持つものはある意味特権階級とも言える。俺は『帯電』の異能を持っている。便利な異能だ。雷をまとい身体強化や感電させることができる。使いすぎると体が焼けるがな。


そんな俺、『リスク』で雇われ傭兵をやっているアルスだが、『フォート』の守護者である公安の異能者や『リスク』のマフィア共には敵わない。だがそんな奴らとは関わらないようにひっそりと仕事をこなしていた。


しかし。しかしだ。つい先日うっかりマフィア共に酔っ払って手を上げてしまったのだ!だがあいつらがぼったくろうとしてきたからな!しょうがないだろ!?


それからしばらくマフィアどもに追われている。逃げていたが、奴らも末端の構成員を含めると1000を超える大型組織だ。見つかってしまいついさっき下っ端を追い払ったのだが、報告が届いていたようでかなり上位の幹部が出てきて、戦闘の末怪我を負わされた。腕と足を一本ずつ吹き飛ばされてしまったのだ。


何とか這って路地裏まで逃げ込んだが、このままでは死んでしまう。血はあいつの異能で出ていないようだが、体力は確実に落ちてきている。だがこんなスラムにに貴重な回復系の『異能』持ちなどいないだろう。


ずるずると這い進む。少しでも、あいつらマフィア共から離れるために。逃げたはいいが見つかれば殺されてしまうだろうからな。すると、目の前にへたっぴな『診療所』の文字が。廃材を無理やりくっつけたかのような無様な看板にぼろっちい小さなビル。

…マジかよ。こんなところに医者がいるとは。どんな確率だ?


何とかドアを叩く。


「はいはい、どちら様?」

ドアが開く。


そこには、腰まで伸びる白髪と金色の瞳を持ち、黒のタートルネックのセーターを着てジーンズをはき、白衣を羽織った少女がいた。14,5歳ほどだろうか。


しゃがんでこちらの顔を覗き込んでくる。


「診療所に御用ですか?怪我人さん?」


「先生をっ、先生を呼んでくれ、お嬢ちゃん!」

息も絶え絶えで何とか伝える。


「え?私が先生ですよ?」

キョトンとした顔で少女が言う。

本当のようだ。職業柄嘘を見抜くことには慣れている。


…ははっ、つくづく俺も運が悪いな。ハズレを引いたみたいだ。


「はぁ、このままだと死んじゃいそうですし、治してあげましょう。報酬はちゃんと払ってくださいね?」


少女の手が俺の体に触れる。その手が光るとそこから暖かい力が流れ込んでくる。だんだん意識が遠のいて…これはまさか、異能!?


そこで、俺の意識は途切れた。


――――――


診療所を開いてから1日。今日も誰も来なかったな、なんて思いながら寝ようとしたら、ドアが叩かれた。

どうやらお客のようだ。運がいいなさえないシャツを着たおっさんだけど、手と足が一本ずつない。まるでねじ切られたかのようだ。


「先生をっ、先生を呼んでくれ、お嬢ちゃん!」


私が先生ですよ???

ま、まあこの体は小さいから間違えられたのかもしれない。


「はぁ、このままだと死んじゃいそうですし、治してあげましょう。料金はちゃんと払ってくださいね?」


そう言って異能を発動させる。


「『診断ダイアグノーシス』、『回復ヒール』」


痛みの記憶が流れ込んでくる。…この人全身中身が焼け焦げてるんだけど。腕や足の痛みとは別に全身に痛みが流れ込んでくる。どうやら『異能』による自傷のようだ。想定外だね。治療費は追加でもらわないと!


光が収まってくる。


治ったので、無理やり部屋に引きずり込んでそこらへんに落ちていたベッドに寝かせる。元成人の腕力舐めんなよ!衛生管理?本物の医者じゃないんだ、そんなことするわけがないでしょう。どうせ怪我から菌が入ることもないわけだし。


―――――


目が覚め周囲を見渡す。朝が来ている事に吃驚して腕や足を見るが、生えている。異能の過剰使用による痛みも消えている。

まるであの怪我が夢だったかのようだ。

腕や足と一緒にちぎれとんだ服が夢ではなかったのだと物語っているが。


あたりを見回すとぼろっちい部屋だった。ベッドに寝かされているようだが、とてつもなくゴミ臭い。起きて部屋を出て階段を降りるとどこから持ってきたのかタバコをふかしている昨夜の少女がいた。体に悪くないか?この街では子供も麻薬をやってる奴もいるが…


「おや、起きましたか」

少女はこちらを向いて言う。


「あ、ああ。君が俺を治してくれたのかい?」

少し動揺する。紫煙を吐いたその時、子供であるはずの彼女の姿が大人に見えた。…気のせいか。


「ええ私の『異能』です。もちろん報酬はくださいよ?」


どうやら本当に回復系『異能』持ちだったようだ。


「何ティル払えば良い?」


「ティル???」

え?何だその反応は!?


「ティル、とは?」

彼女が首を傾げながら問う。


───どうやら金の単位すら知らないらしい。どうやって生きてきたのだろうか。もしかして良いところのお嬢様なのだろうか。


「ティルってのは金の単位だ。10ティルで合成パンが一つ買える」


「ふむふむ、じゃあ10万ティルほどいただきましょうか」


え?…腕や足を治してもらったことを考えると全然安いか…

ちなみに治療院での応急手当は1000ティルほどでしてもらえる。

「ああ、分かったよ」


「ちなみに支払いはどうやって?」

再び彼女が問いかけてくる。


「現金でいいか?信用がないのはわかっているが手持ちで10万ティルは払えないからな」

これは賭けだ。彼女の信頼が得られなくとも支払わずに逃げられはするだろうがここを再び利用するのは無理だろう。


それほどに彼女の価値は高い。


『リスク』では、回復系の異能は珍しい。まず数が少ないのに加え、大抵は『フォート』の金持ちに連れて行かれてしまうからだ。


「ええ、それでいいでしょう。おじさん、ところでお名前は?」


「ゴフッ!おじ…ああ、アルスだ。よろしく、嬢ちゃん」

おじさん!?俺これでも26歳なんだが!?

まあ賭けには勝った。彼女は人を疑わない善人なのだろうか。


「私はカミラです。よろしく、アルスさん」

カミラが微笑みを浮かべる。それでタバコを咥えてなきゃ良かったんだけどなぁ…

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