第4話 世の矛盾を感じたが負けるわけにはいかない
二日後、二階でエリアマネージャーと岩本雇われ店長と私とが話し合うことになった。
エリアマネージャー曰く
「あなたの接客のおかげで岩本店長が迷惑を被り、減給処分になってしまった。
だから謝りなさい」
私は一応、申し訳ございませんでしたと謝った。
「お客様は神様だ。あなたの「へい、いらっしゃいませ」の物言いがお客様の気に障ったら、それはあなたの責任でしかない。
ここで謝罪証明証を書きなさい。
エリアマネージャーが口頭で言う通り、私は便せんに縦書きで書いた。
「○月○日の午後、私はへい、いらっしゃいませ、はい、テーブルを拭きました。
カチャリンと音をさせて水を置きました。
以上のことで店に迷惑をかけました。
どのような処分も覚悟しております」という内容をエリアマネージャーに言われるまま手書きで書き、住所と氏名をサインし、言われるがままに拇印を押印した。
今から思えば謝罪証明書など書く必要などなかったが、私は始末書のように、これさえ書けばまた戻れるだろうと思っていた。
しかし、考えが甘かった。エリアマネージャー曰く
「これであなたは、この店とも会社とも縁がなくなってしまった。
これ以上、この店いや会社に迷惑をかけないでほしい。
私の管轄内ではあなたを雇わないことに決めた」
私はポカンとするしかなかった。
へい、いらっしゃいませが、店に迷惑をかけることなのだろうか?
そこで私は岩本店長に電話をして
「お聞きしますが、謝りにいった客の名前と住所わかりますか?」
岩本店長はヤクザ調で
「今頃になってなに抜かしとんねん。車に置き忘れた。
オレが謝りにいってないと思うのか!」
そう言って一方的に電話を切った。
なんだか、胡散臭い匂いを感じた。
そういえば、岩本店長はチーフに、健康保険証を取り上げられたと愚痴っていた。
サラ金の借金ならそこまではしない。おそらく反社が経営している闇金の仕業であろう。
そういえば岩本店長は、大のギャンブル狂で競輪、競馬、パチンコなどなんでも来いだという話は聞いたことがある。
もちろんそれが会社にバレれば、岩本店長の立場は危うくなり、ましてや雇われとはいえ店長職を解雇されるかもしれない。
まあ、雇われ店長の代わりなどいくらでもいるのであるが。
私は岩本店長の企みに利用されたのだろうか。
もしそうだとしたら、私一人だけが悪者扱いされたという事実に、泣き寝入りすることはできない。
だいたい、エリアマネージャーというのは雇われ店長が余程の悪事を働かない限りは99%雇われ店長の味方である。
なぜなら、雇われ店長を任命し、いろんな店に派遣するのはエリアマネージャーであり、雇われ店長の失敗=エリアマネージャーの責任でもある。
都合の悪いことは、一か月契約の使い捨てのアルバイトの責任に仕立て上げ、それでご破算である。
しかし私は、いくら謝罪証明書を書いた、いやなかば無理やり書かされたとはいえ、一方的に悪者扱いされるわけにはいかない。
そこで私は策を練り、ある手紙を本社に郵送した。
「私は、客としてこの店を訪れましたが、気に食わないことがあり、岩本店長を自宅に呼び出し、謝罪させましたことは事実です。
ところが、そのとき非常に困ったことが起きました。
私がさる方から預かっていた靴がなくなっているのです。
ちなみにさる方というのは、闇金などを経営しているコワモテ男性です。
たぶん、岩本店長が間違って履いて帰ったのだと思われますが、どうか返却して下さい。
ちなみにさる方というのは、闇金などを経営しているコワモテ男性ですので、一日も早く返却して下さいね」
私はその手紙を、本社に二回に渡って郵送した。
それから風のうわさで聞いたが、やはり岩本店長は転勤になったという。
ということは、やはり岩本店長に苦情を言った女性客の存在といい、その女性客が自宅に呼び出して謝罪させたというのは嘘だったのだろう。
私の予想通り、女性客というのは闇金の取り立て屋のことであり、自宅に呼び出したというのは取り立てのことであった。
のちに私は、チェーン店の店に応募したが、雇われ店長曰く
「なにがあったとかは別として、あなたは謝罪証明書を書いて提出したでしょう。
そんな人は雇いかねます」
書いたというよりは書かされたにも関わらず、なんと無責任な。
またそうやって、都合の悪いことはアルバイトの責任に仕立て上げようとする。
それとも謝罪証明書の中で「どのような処分も覚悟しています」の文言のあとで、私の住所と氏名を手書きし、拇印まで押印したのだから、そのことを認めたと判断されても仕方がなかったのだろうか。
まあどちらにしろ、一か月契約のアルバイトなどこれ以上勤務しても、将来は見えないままである。
私は潔くあきらめることにした。
「以上、闇金店長の犠牲になった女子アルバイトの悲劇的話です。
誰しも明日は我が身に火の粉が降りかかり、決して対岸の火事のような他人事ではないんですよ。ジャジャジャーン」
話を終えた節奈に母親は
「ギャンブルって本当に悲劇的ね。家族や職場の人まで巻き込むものね。
現在の犯罪者のパターンは、ギャンブルで借金を抱えている人が多い。
ギャンブルは単なる後払いの買い物とは違って、依存症になるから、最後の砦として闇金で借りるケースが多いからね。
そういう人が増えないことを願ってるわ」
とパチパチパチと拍手をかえした。
節奈は思った。
勉強も大事だけど、いろんな人とコミュニケーションをとることはもっと大切なんじゃないかな。
といっても、悪党とコミュニケーションをとると、こちらが騙されて金の餌食になるに決まっている。
北朝鮮では、人身売買ー男性は炭鉱などの力仕事、女性はネットポルノであり、ネットポルノは相手と接しないから性病の危険性もないかわりに、世界中にばらまかれる恐れがある、子供の乞食ー単なるホームレスではなく、子供5人が大人を取り囲み、強盗をするー、また水もロクに飲めないらしい。
脱国者曰く「北朝鮮では、真面目にまともに生きようとしたら死んでしまう」
まるで、戦時中の日本のようである。
しかし、国語力を身につけなければ、新聞の難しい記事を読んでもチンプンカンプンだし、数学問題も一題も解けなければかっこ悪いし、スイスイ解ける人にコンプレックスとジェラシーを感じる結果となりそうである。
職業の選択も、狭められるので、不況になればたちまち困る。
またコメンテーターと呼ばれる人は、皆例外なく高学歴である。
ある女性漫才師リン○は、仕事の傍ら通信制大学に通い始めたという。
そうでないと、一流大学卒の集まりである番組には呼んでもらえない。
現代は、中国人が日本の進学塾に通い、一流大学を目指しているという。
十年以上前から、中国人でありながら日本の私立大学の博士課程をとった人もいるが、やはり日本とはあまりにも国民性が違いすぎるという。
ぼやぼやしていると、外国人に日本を乗っ取られそうである。
そうなると、忘れていたはずの戦争が勃発する危険性が生じるだろう。
「すごいじゃん。節奈、正当率80%だよ。あと20%意地でも頑張りな」
未有先輩のテスト採点後の感想である。
ドリルを丸暗記してきただけの成果はあった。
やはり努力の積み重ねだよね。そんな自信にも似た確信が、生まれてきた。
「はーい、百点満点になるまで、頑張りまーす」
なんだか、家庭教師と生徒との会話である。
まあ、この頃は少子高齢化とAI化と影響で、塾経営は困難な状況にあるという。
また塾講師は所詮、一年契約いや半年契約の人気稼業であり、生徒を合格に導かなければ解雇となる。
それゆえに、小学生の生徒=お客様である
営業成績が悪い故に生徒に暴言を吐く講師も存在し、生徒が塾嫌いになるケースもあるという。
まあ、AI化の影響で良くも悪くも、人間臭さが失われつつあることは事実であるが、人間のもつ醜さも理解する必要がある。
この頃はファミレスでも、アプリで注文を取り、ロボットが配膳し、計算も機械でOKの時代であるが、人間の温もりが存在しないので、料理まで味気ない愛嬌のないものになってしまう。
話を元に戻そう。
未有先輩が、ブラックコーヒーを入れてくれた。
「この珈琲、いい香りだろう」
未有先輩と節奈は珈琲の味を堪能した。
ふとこういう空間が、幸せというのかなと思う。
未有先輩が口を開いた。
「まあ、私の生い立ちは、節奈には話す必要はないが、おいおいわかってくると思う。しかし、好奇心で詮索するようなことはしないでほしいな」
「まるで週刊誌のゴシップ記事みたいですね。人を詮索してどうなるわけでもないのにね」
しかし、人間同志ちょっぴり興味はある。
未有先輩はおかんがいるようないないようなとは、どういう意味なのだろう?
ひょっとして産みの親と、育ての親と二人いるということなのだろうか?
それとも、おかんに放ったらかしにされ、その腹いせに暴言を吐いてるだけなのだろうか?
節奈には想像もつかない。
その途端、チャイムが鳴った。
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