桜の樹の下には■■が埋まっている

匿名希望

「因縁」

蝉が忙しなく鳴いている夕暮時。

少女はスコップを片手に校舎裏の神社の桜の樹の下へ立っていた。いわゆる校内神社の1つである。

神社と言えど寂れ不気味な雰囲気が漂っているせいかいつしかこの場所には


「桜の樹の下には死体が埋まっている」


そんな噂がこの学校では流行っていた。そんなありふれた言葉は今では少し陳腐かもしれない。

だが気づいたときには既に足は向かっていた。

そんな噂がなぜだか気になってしょうがなかった、ただ動機はそれだけである。

自分の行為を咎めるように蝉が鳴いている。そんな蝉の声を振り切るように土にスコップを立てた。

しばらく土を掘り続ける。

手元に積もる土が、もう山のようになっていた。

ふと、その重みに気づいて、手が止まる。


「何もない…」


やっぱり死体なんて埋まってるわけない。

当たり前のことだが少し落胆した。

スコップをどけようとした瞬間。

ふわりと頬を、桜の花びらが撫でた。


「綺麗…」


_____そう思った瞬間、目が離せなくなった。

まるで誘われるみたいに、その花々に魅入ってしまった。


けれど、すぐに違和感が胸を締めつけた。

そもそも今は夏だ。桜なんて、咲いているはずがない____。

そう気づいた途端ドッと汗が噴き出す。

桜を視界に入れたくなくて視線を下に下ろす。


「ひっ………」


思わず腰が抜けた。なぜならそこには人の体があったからだ。

なんで?噂は本当だった?そんな考えが次々に脳裏を駆け巡る。

目の前のそれは腐ったり白骨化もしておらず、そのまま眠りについたかのように綺麗なままだった。

じゃあ最近埋められた?もしかしたら普通に事件かもしれない…

そんな事を考えていた、その時。

今、確かに____“指先が動いた”。

見間違いだと思いたかった。

けど目の前のそれは確かに私の事を見ていた。


「…ぁ……ぇ……」


そんな言葉にならない音が口から漏れ出る。

恐怖で体が動かない。

その間にもじわじわと距離を詰められる。

とうとう目の前に迫ったそれは私の手を掴み


「ぁ〜、やっと起きられたわぁ〜……君のおかげやねぇ」


と笑ってみせた


脳が理解する前に、視界がぐらりと傾いた。

 ──あ、ちょっ──

最後に聞こえたのは、焦ったような男の声。

そのまま私は意識を手放した。


何だか頭が痛い。さっきほど掘っていた穴にはただの土の山ばかりで、そこには何もなかった。

……そう、何も。

夢だったのかも知れない。そう思って体を起こした瞬間、上から声がした。

「……あ、目ぇ覚めた?いや〜ありがとぉな〜僕、起きたん何年ぶりやろ〜」

軽い声と一緒に、視界の端でけらけらと笑う男がいた。

「は????」

目の前でにこやかに笑う男。

脳が理解を拒む。

なんだこいつ?誰だこいつ??

とにかくめちゃくちゃ胡散臭い。


「ほな、これからよろしゅうな〜」


軽い調子でそう言って、男はにやりと笑った。

私はその瞬間、ようやく悟る。


_____自分は、取り返しのつかないことをしてしまったのだと。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る