せいしゅん、ゆうじょう、きせき、こい

脱力

智ちゃんは

1.

他人なんて

言葉では粘膜の部分から順番に触ってきて

だいたい息や脇が臭すぎるに決まってるのに

お前はみんなと仲良くなりたくて友達がいっぱい欲しいのか。


「きもいよね」

「何が?」

「殺したんだって」


智ちゃんの食べるアイスは、完全に私といつも逆のチョイスだった。

私は手が汚れるから棒アイスなんて嫌いで、たとえ魅力的に見えたとしても食べたくなるのは決まって夏だから嫌いで、私を無視してワガママに溶けやがるところが、身勝手なガキみたいで嫌いだった。けど、

智ちゃんほどでは無い。


テレビのニュースで、子供を殺して遊んだのがバレたババアとジジイが落ち込んでいた。


「理解できないわ」


できる癖に。


「見た目もさ」

金髪の肩出し勘違いババアと、金髪のピチピチTシャツ着たジジイ。

きれいなコントラスト。


「私さ、だからギャルとか苦手なのかもしんない」


智ちゃんの口からアイスにかけて糸が引く。

「なんか汚い感じすんじゃん。」

智ちゃんの鼻の下にこっそりと生えた、多分誰にも見つからない規模感のウブ毛を、集中して見つめながらいつも通り智ちゃんが嫌いになった。

「智ちゃんのこと、ギャルだと思ってる人いるかもよ」

「いねえよ」

「あ、こぼれた」

私の家の前だよ。


リビングの大きな窓から見えるテレビは、無駄に音量がバカデカくて。うちの家族が全員頭お花畑だということが大公開されていた。



一人で渋谷に行った時に、道端で寝ていたお姉さんが、私にむかって吐いたから。私の服はげろまみれになった。近くのコンビニでスポーツドリンクを買って、お姉さんの横に置いといてあげた。そしたら急に目を開けて「ねえ」と話しかけてきた。無視すればよかった。目が合った。

とてつもなくこの女と話す時間が無駄に思えた。と同時に私の服にこびりついた異臭を頼りに「服が汚れた、見て」って謝らせたくて言ったら、この女は頼んでもいないのに服を脱ぎだして、上半身下着一枚で私に抱きついてきた。

私に自分が着ていた服を着せようとしながら


「しょうがないなあ。見られたら恥ずかしいから早く。着ていいよ。しょうがないなあ。今日誕生日?しょうがないなあ。」


と、つべこべ言った。でもそんな服は要らないし、なんせお姉さんは三十間近のギャルで私は二十前半の控えめだし。服のセンスはこの世の終わりみたいだったし。「いらない」って言って着せてあげたけどお姉さんは私に抱きついたもんだから、さらに私もお姉さんもゲロまみれだし、臭いし、ため息が出た。

「もういいや」

って言ったら、お姉さん立ち上がって「ちょっときて」って言って

路地裏、私の目の前でほぼ全裸になった。

「ほら、あげるって」服をくれるらしい。どうしても。こんな意味のない「どうしてもの顔」、初めて見た。

酔っ払いはこれだから好きだ。私はお姉さんに服を投げつけて

「恥ずかしい」って言ったら

お姉さんはガッツポーズして「幸せ」って言った。

続けて「ありがとう!!!!」だって。こうゆう話ジブリでやんないかな。



テレビのニュースに出ていたのはその人だって、智ちゃんには内緒にしてた。


智ちゃんは色白で、髪が長くてサラサラで、小顔で可愛くてつまんなかった。けど可愛いから別にいい。


「きいは今好きな人いるの?」


殺人夫婦の話題にも飽きて、智ちゃんが私を見た。

「いっぱいいるよ」

「いや、まーた意味わかんないこと」


どうでもよくね?あんたも好きだよ。


きいって、ドアが開く音みたいのは私の名前。




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