蒼の六輪華
bSi
現世編
妖精の泉
「8、9歳位だったかなぁ。不思議な体験をしたんだ。こっちは真面目に話してるんだけど周りからは嘘つきだ、頭がおかしい奴だって言われたよ。まぁ、どう考えても信じられない出来事だったし言われるのも分かる。仕方ないんだけどね。君が笑わないって約束してくれるなら話すよ。
…OK、約束ね。
小学校に入ってすぐ、数人の友達と近所の森で遊んでいた時なんだけど…」
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雪溶けの名残が足元を湿らせ、どこからか聞こえる水の音。冷たくも澄んだ空気が辺りを包む。
幼い彼らにはその静けさの裏側にある危険性など理解できるはずもなく、奥へ奥へと森を進んでいった。元々高木に囲まれて見晴らしの悪い場所だったが、草も肩の高さまで生い茂る奥地に入り込んでしまう。
(はぐれちゃった)
そう思った頃にはもう手遅れだった。冷たさや静けさが段々と不快感に変わっていく。
大きな声で人を呼んでも来たはずの道を戻っても上手くいかず徐々に日が落ち、気温と体温が落ちていく。
(このままじゃ死んじゃう、誰か助けて)
そう思った時、目の前に黄色い光が現れた。
その光はどこか暖かく空中で小刻みに揺れている。
「…」
光は少年に向け何かを語る。
「着いてきて」
言葉は分からなかったが、そう言われた気がした。
不思議な温もりを信じて着いていくと、そこには小さな泉。先程までと違い、暖かな木漏れ日に包まれる明るい所。空中に浮いた様々な色の光が辺りを照らし、泉の中央には人型の大きな蝶の羽を生やした美しい女がいた。
「あら、珍しい。人の子供がこんな所に迷い込むなんて」
そこにあるすべては美しかった。だが、その美しさこそが異様で現実離れしていた。
その違和感は次第に恐怖へと変わり、少年の本能が警鐘を鳴らす。
――ここから逃げなければ。
そう思った瞬間、先ほどの黄色い光が女のもとへと自ら近づいていった。
「…そう。ということは、この子は迷子かしら?…分かったわ」
傍から見れば独り言のようだが、どうやら光と話しているのだと理解できる。光に対して向ける優しさや母性を目の当たりにしたことで、少年の恐怖は少し落ち着いた。
それを見た女は優しく話しかける。
「人の子よ、この花を受け取りなさい」
女が手渡して来たのは、ほのかに良い香りのする青色の六輪花。幼いながらにそれが大切なものだと理解した少年は、花をズボンのポケットにしまった。
「さぁ、案内してあげて。ここは私達、妖精の住処。次に来る時には…」
彼女がそこまで話すと、辺りは再び暗い森へと変わってしまった。何が起きたのか。少年はその出来事の難解さに、深く考えるのをやめることにした。
ゆらゆらと案内を続ける光を頼りに進んでいく。しばらく歩けば森の入口にたどり着いて、そこには母親がいた。
「
もう…こんなに冷たくなって。とりあえず家でお風呂に入りなさい。ご飯を食べたあとはお説教だからね」
安心した少年は母と手を繋いで家に帰っていく。光はいつの間にか居なくなっていた。
少年は風呂に入ったあと、母に寝かしつけられながら頭を整理する。そうすればやはり、夢を見ていたと考えるのが自然だと思った。今日の出来事は明日母に話してみよう。そう思った。
翌朝、ご飯に呼び出された少年は驚愕することになる。朝ご飯と共に、机の上には確かに青い花が置かれていたからだ。
――
「とまぁ、こんな具合だね。そしてその花がこれ。人に見せるのは初めてだよ」
そう言うと青年はバッグの中にある青い花を自慢げに見せた。
「不思議なことにこの花、傷つかないし枯れないし昔からこのままなんだよね。ほら、匂い嗅いでみてよ、ちゃんとした花でしょ?嗅いでみなって。
…シホ?どうしたのさ、急に黙って」
「…実は私も、その花持ってるのよ」
彼女が取り出した栞には、全く同じ見た目をした、花が
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