第13話 途上の聖騎士
少年騎士ヨルケは身の上話を語った。
「おれ、幼い頃にこの街で聖騎士団に助けられたんだ。母ちゃんとおれが盗賊に襲われた。あの時はすごく怖かった。でも騎士が勇敢に助けてくれたんだよ。なんてカッコいいんだって思った」
「…………」
シュウゼはヨルケの語りに耳を傾け続ける。
「だからおれも騎士を目指した。必死に修行してやっとの思いで入団した。だけど、あんたも見ただろ、今朝のおれを。いくら鍛錬したってなかなか強くはなれない。あんな魔物一匹倒せなかったんだ。おれには才能がないんだよ」
ヨルケの目線はどんどん下を向く。
「聖騎士団に入ってからは女神様に祈るようになった。みんなも祈ってる。強くなれますように、民を守れますようにって。でもおれは思うんだ。女神様なんているかどうかわからない。本当はいないのかもしれない。報われないって思えば思うほど、女神様のことが信じられなくなるんだ」
シュウゼは一息おいて、悩む彼に言葉をかける。
「女神様はいると思うぜ」
「なんでそんなに自信をもてるんだよ」
「女神様を信じる人たちに囲まれてるからな。だから俺も信じられるんだよ」
「なんだそれ」
ヨルケはちらっとシュウゼを見やる。
そしてやれやれと一つ嘆息した。
「なあヨルケ。お前に会わせたい奴らがいる。一緒に魔物の調査に行かないか」
「はあ? 何言ってんだよ。団を勝手に抜け出して行動していいわけないだろ」
「……そうだよな。じゃあ、情報ありがとよ」
シュウゼはベンチから立ち上がると、ヨルケに背を向けたままそう言った。
「……なんだったんだよあいつ」
ヨルケは西へ駆けていくシュウゼの背を見送った。
* * *
王都ナハト西の森――妖精の村。
すっかり暗くなった森は、不気味な静寂を帯びている。
「夜がやってきましたね」
「フランベール様。私はこの村が無事でいられるよう祈りを捧げます」
「私も女神様にお祈りします」
祈りを天に捧げるフランベールとリオーナ。
その様子をじっと見つめるミーフィアと村長たち。
「ところでフランベールといったか、お前さん、一体何者じゃ? ただならぬ気を感じるが」
「私は何者でも――」
「フランベール様は女神様にお仕えする天使様だ。無礼はよせよ」
フランベールの言葉を遮り、リオーナが得意げに他己紹介する。そのままフランベールの外套をちらっと脱がし、彼女の翼を自慢げに見せる。
「リオーナ様!?」
「あっ……申し訳ございません、つい……」
「天使……?」
不思議そうにフランベールを見つめるミーフィア。
その様子は、天使がどのような存在かをあまり知らないようであった。
「ほう。天使だったのか!」
「はい……あの、あまり見つめられると恥ずかしいです」
頬を赤らめるフランベール。もじもじする彼女をよそにニヤニヤ顔を抑えられないリオーナだった。
「なぜ天使が旅をしておるんだ。それもこんなところに」
「私はシュウゼ様が小さい時から行動をともにしております。シュウゼ様のお父様との約束があり、私にはシュウゼ様を見守る役目があるのです」
「我ら妖精と似ておるな」
「そうなのか?」
「元来、妖精という存在は森に迷い込んだ人間に寄り添い、導き、災いからその身を守るという役目がある。フランベール殿がシュウゼ殿に寄り添っているのと同じようなものじゃ」
「はい。私たち天使もそのように認識しております」
「じゃがこれまでの歴史の中で、森は人間や魔物の手によって破壊が繰り返されてきた。妖精たちの棲家も奪われていき、人間を信じられない妖精も多くなった」
「…………」
なんとも言えない顔になるフランベール。何も言わずに村長の話を聴いた。
「そこに昨晩の襲撃もあれば、そりゃあ人間に不信感を抱いてもしょうがないよな」
リオーナも納得したように相槌を打つ。
「でもどうしてシュウゼ様たち人間の方を信用してくれたのですか?」
「ミーフィアが連れてきたからじゃ」
「…………」
みんなが一斉にミーフィアを見た。きょとんとする彼女は照れも困惑もしていない。
「わしらの大切な仲間であり家族同然のミーフィアを救い、ここまで送り届けてくれた。良い人間もいることをわしは知っておる。これも天使の導きということかの」
「いえ、女神様のお導きです。私たちを信じてくれたミーフィア様の思いがきっと天に届いたのです」
「ああなんて崇高な女神様とフランベール様……尊い……」
フランベールの横で手を組むリオーナ。感動の涙を流している。
「さて、シュウゼ殿は何か良い情報を得られたかの」
その時だった。
ズシンと地鳴りが響き、千年大樹が小刻みに揺れた。
『ガルルル……!』
またもや魔物の群れが現れたのだ。
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