第4話 赦し
結婚式当日。
香織は白いドレスに身を包み、手には小さな指輪を握りしめていた。
鏡に映る自分の顔は、緊張と覚悟で少し硬い。
だが胸の奥には、これまで感じたことのない静かな決意があった。
「香織・・・大丈夫?」
母の優しい声に、香織は小さく頷く。
「うん。大丈夫。」
会場に向かう途中、胸ポケットに忍ばせた封筒が少し重く感じた。
紗英からの手紙――あの時、喫茶店で手渡されたものだ。
内容は短く、でもはっきりと香織の心に届いた。
“赦すことは、弱さじゃない。愛を信じる力だと思う。”
香織は深く息を吸い込み、手紙を胸に押し当てた。
復讐に燃えた日も、傷ついた日も、すべてがこの瞬間のためにあった気がした。
式場の祭壇前。
悠真は少し緊張した顔で立っていた。
香織は静かに歩み寄る。
「香織・・・」
「悠真」
声が震える。だが、涙は笑顔に変わっていた。
牧師が微笑みながら二人に向かう。
「それでは、誓いの言葉を交わしてください」
香織は指輪を差し出しながら、心の中でそっと言った。
「私は、あなたを赦します。過去も、弱さも、全部受け入れます」
悠真はその言葉を聞き、涙をこらえられずに笑った。
「香織・・・ありがとう。俺も、君を信じる。これからずっと、一緒に歩こう。」
二人の指が絡み合い、指輪がはめられる瞬間。
過去の痛みも、復讐も、怒りも、すべてが静かに消えていく。
光が二人を包み、祭壇の向こうで桜の花びらが舞う。
式が終わり、披露宴会場の片隅。
香織は静かに封筒を取り出し、もう一度手紙に目を落とす。
「紗英・・・ありがとう。」
小さな声で呟き、便箋を握りしめる。
あの日の怒りや孤独も、今はただ過去の記憶として心に残るだけだった。
悠真が香織の手を取り、肩を抱く。
「俺たち、幸せになろう。」
「そうだね、幸せになろう」
二人はそっと見つめ合い、笑った。
外の庭では桜が舞い、柔らかな春の風が吹く。
香織の心は静かに、そして確かに満たされていた。
赦すことは弱さじゃない。
愛を信じることは、過去を乗り越える力になる。
香織はそう思いながら、悠真の手を握りしめた。
そして二人は、手を取り合ったまま、新しい人生へと歩き出した。
赦しの指輪 てつ @tone915
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