第4話 新しい人生
## 1
葬儀から2週間後。
スマホに通知が来た。
【ご入金のお知らせ】
銀行アプリを開く。
口座残高:**52,473,891円**
「…きた」
声が震えた。
5,000万円。
本当に入ってきた。
私は画面を何度も見返した。
数字が間違っていないか確認する。
でも、何度見ても同じ。
**5,000万円。**
「やった…やった!」
部屋で一人、飛び跳ねた。
クッションを抱きしめて、ベッドに倒れ込む。
**これで、人生変わる。**
**もう、誰にも頭を下げなくていい。**
**働かなくていい。**
**自由だ。**
## 2
その日、私はショッピングに出かけた。
久しぶりの銀座。
拓也が生きていた頃は、お金を使うたびに嫌な顔をされた。
「また無駄遣いか」
「専業主婦のくせに、何にそんなに金がかかるんだ」
でも、もう違う。
**このお金は、私のもの。**
ハイブランドのショップに入る。
「いらっしゃいませ」
店員が笑顔で迎えてくれる。
バッグ、靴、コート。
値札を見ても、ためらわない。
「これと、これと、これをください」
合計120万円。
以前の私なら、絶対に買えなかった金額。
でも今は違う。
「かしこまりました」
店員が丁寧に包んでくれる。
カードで支払う。
サインをしながら、私は思った。
**これが、自由ってことか。**
## 3
帰り道、カフェに入った。
窓際の席に座り、ラテを注文する。
紙袋を足元に置いて、街を眺める。
平日の午後。働いている人たち。
私は、もうあの世界には戻らない。
スマホを開いて、資産運用のサイトを見る。
**5,000万円を、どう増やすか。**
定期預金?つまらない。
株式投資?リスクはあるけど、リターンも大きい。
不動産投資?安定収入になる。
「全部やろう」
私は決めた。
1,000万円は安全資産(定期預金・国債)。
2,000万円は株式投資。
2,000万円は不動産投資(マンション一室を買って賃貸に出す)。
ちゃんと勉強すれば、年利5%くらいは狙える。
そうすれば、年間250万円の不労所得。
**働かなくても、生きていける。**
「完璧じゃん」
ラテを飲みながら、私はニヤリと笑った。
## 4
その夜、インターホンが鳴った。
午後8時。誰だろう?
モニターを見る。
若い女性が立っている。
**ユリだ。**
拓也の浮気相手。
私は一瞬、迷った。
居留守を使おうか。
でも———面白そう。
「はーい」
明るい声でドアを開けた。
ユリは、驚いた顔で私を見た。
「あの…香坂美咲さんですか?」
「はい、そうですけど」
私は笑顔で答えた。
ユリは言葉に詰まっている。
「あの…拓也さんのことで、お話が…」
「どうぞ、入って」
私は彼女を部屋に招き入れた。
## 5
リビングで向かい合って座る。
私はお茶を淹れた。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます…」
ユリは緊張した様子でカップを受け取る。
私は、彼女をじっくり観察した。
細身。派手なメイク。でも、よく見ると目が腫れている。
**泣いてたんだ。**
「それで、お話って?」
私が聞くと、ユリは俯いた。
「あの…私、拓也さんと…付き合ってました」
「知ってますよ」
ユリが顔を上げる。
「え…?」
「浮気してたの、知ってました」
私はさらりと言った。
ユリは蒼白になる。
「そう、だったんですか…」
「ええ。でも、もういいんです。だって、拓也さんはもういないから」
私は微笑んだ。
ユリは震える手で、カップを置いた。
「あの…私、本気だったんです」
「へえ」
「拓也さんも、離婚するって言ってました」
**は?**
私は笑いそうになった。
**離婚?**
**そんなこと、一度も言われたことないけど?**
「それは…気の毒でしたね」
私は棒読みで言った。
## 6
ユリは涙を流し始めた。
「私…拓也さんのこと、本当に愛してたんです」
「そうですか」
「でも、奥さんがいるから…私、ずっと我慢してて…」
**我慢?**
**人の夫と寝といて?**
私は内心、呆れていた。
でも、表面上は優しく微笑んだ。
「辛かったですね」
「はい…」
ユリはハンカチで涙を拭く。
「あの…一つだけ、聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
「拓也さんは…幸せでしたか?」
私は少し考えた。
そして、答えた。
「さあ、どうでしょうね」
ユリが顔を上げる。
「私にはわかりません。だって、拓也さん、家では不機嫌だったから」
「え…」
「いつもイライラしてて、私に冷たくて。きっと、あなたといる時の方が楽しかったんじゃないですか?」
ユリは言葉を失った。
私は続けた。
「だから、感謝してるんです」
「え…?」
「あなたが、拓也さんを幸せにしてくれて。私にはできなかったから」
## 7
ユリは泣き崩れた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…!」
「謝らなくていいですよ。もう、終わったことだから」
私は冷静に言った。
ユリはしばらく泣き続けた。
私は黙って、彼女を見ていた。
**この子も、被害者なのかもしれない。**
拓也に「離婚する」と嘘をつかれて、本気になって。
でも———
**だからって、許せるわけじゃない。**
「お茶、冷めちゃいますよ」
私は優しく言った。
ユリは涙を拭いて、カップを手に取った。
「あの…これからどうされるんですか?」
「私?そうですね…自分の人生を、楽しもうと思います」
「楽しむ…?」
「ええ。拓也さんがいない人生を。それも悪くないかなって」
ユリは複雑な顔をした。
私は微笑んだ。
**ごめんね。**
**私、全然悲しくないの。**
## 8
ユリが帰った後、私は窓辺に立った。
夜景を眺めながら、深呼吸をする。
「変な子だったな」
本気で拓也を愛していたらしい。
**バカだなあ。**
あんなクズを。
でも、私も昔はそうだったかもしれない。
結婚する前は、拓也のことを愛していた。
優しくて、頼りがいがあって。
**でも、結婚したら変わった。**
本性が出た。
モラハラ、浮気、無関心。
「まあ、もういいか」
全部、過去のこと。
これからは、私の人生。
スマホを開いて、旅行サイトを見る。
**ヨーロッパ、行きたいな。**
パリ、ローマ、バルセロナ。
一人旅。
誰にも気を遣わない、自由な旅。
「来月、行こう」
私は予約画面を開いた。
## 9
その夜、ベッドで横になりながら、天井を見つめた。
葬儀から2週間。
あっという間だった。
でも、すごく長い時間だった気もする。
**人生が変わるって、こういうことなんだ。**
拓也がいない生活。
最初は、少し寂しいかもと思っていた。
でも、実際には———
**最高だった。**
静か。
自由。
誰にも邪魔されない。
「ありがとう、拓也」
また、同じ言葉を呟いた。
**死んでくれて、ありがとう。**
そして、私は深い眠りについた。
明日も、きっといい日になる。
**【第4話 終】**
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