ノンケの後輩が今日もあざとい!

白林コト

かわいい後輩が泊まるなんて聞いてない

梨竹優衣が入社して、もうすぐ1ヶ月半になる。


あの子が来てからというもの、職場の空気がやけに明るくなった。元々悪くはなかったんだけど…。

受付で笑顔を振りまいている梨竹さんは患者さんからもスタッフからも人気で、ほんと笑顔が可愛くて誰にでも明るく接する。それが自然体だから、あざとく見えないのがずるい。


でも――私、高山美穂はあの子のあざとさに心を乱されている。まぁ梨竹さんはそんなつもりないんだろうけど…。



「美穂さーん。お肌ぷにぷにでかわい〜」

休憩中、梨竹さんはそう言いながら私のほっぺたや腕を触っている。


「そう?何もしてないというか太ってるだけだよー」

私は平然を装いながらそう返すが、内心とてもざわついている。

(なにこの子、距離近すぎない?え、可愛すぎる…あー、私が貴女の肌ぷにぷにしたいわ…)


はぁ…、毎日、心が忙しい。

無邪気な笑顔で距離を詰めてくる梨竹さんに何回――いや、何十回、心臓を撃ち抜かれたかわからない。

彼氏持ちだし「男好きなんで!」ってあっさり言っちゃうような子だ。私と恋愛関係になる可能性なんて1ミリもないのに。ドキドキしたって期待したって何もないことは私が1番わかっている……はずだった。



♢ ♢ ♢ ♢



―――梨竹さんの歓迎会の帰り道。


「美穂さん、お家に泊めてくれませんか…?」

酔いが少し残っている頭では瞬時に理解できず時が止まる私。そんな私を泣きそうな瞳でじっと見つめる梨竹さん。


「…だめですか?」

その上目遣いがあまりに反則すぎて、言葉が喉に詰まる。

「あ、いや…だめじゃないよ。私の家行こっか」

不安そうに見てくるから慌てて応える。


あの綺麗な瞳でお願いされて、断れるわけがない。

乱れた心を落ち着かせながら自宅へ向かう。

なぜこのかわいい後輩が泊まることになったのか、まだしっかり理解できないまま――




歩幅を合わせながら歩いていると、ぽつりぽつりと話し始めた梨竹さんの言葉たちから少しずつ理由が見えてきた。

どうやら彼氏と喧嘩中らしい。

彼氏の愛情が重く感じるそうで、最初の頃はその愛情が嬉しかったが、束縛が激しくなり嫌気がさしてるんだとか。


…知らなかった。明るい笑顔の裏でそんなことがあったなんて。

私にできることがあるならばそれをするしかない。梨竹さんが嫌な思いをしないことが、幸せであることが私の幸せなのだから。



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