美醜

江戸瀬トラ

プロローグ

 彼は何も無い、虚空のような場所の中に立っていた。

記憶はない。ここがどこかも、今がいつかもわからない。

ただ分かることは自分が何者であるか、そして自分の感情だけであった。

彼はしばらくぼーっとした後、やっと口を開いた。

「嫌な所…。」

ぽつりと言いこぼした後、彼がふと下に視線を落とすと一人の男がこちらを見つめていた。

何故だろう。自分はあの男に会うべきだ。会わなければならない。

そう思うより先に、彼は今立っていた場所からひらりと落ちてしまった。

 これから貴方が目にするのは美しくも恐ろしい、愛の物語。

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