才媛自刃

内海郁

第1話

〈〇〉



 天才。天才、天才。


 嗚呼、なんて無責任で狡猾な言葉だろうか。


 赤子の手を捻るかの如く人を無敵感に陥らせ、傲らせ。最後には働き蟻のように踏み散らされる。


 彼女は生来、この言葉の糸に踊らされ、生きてきた。いいや、今もそうだ。


 あの時感じた脳髄を巡らす恍惚と狂酔に今も溺れ、みっともなく泥水を啜っている。


 憎い。彼女をもてはやした全てが。


 憎い。中途半端に授けられた才が。


 憎い。阿呆のようにその口車に乗った彼女が。


 苦しい。苦しい、苦しい。


 嗚呼、なんて滑稽で愚かな人生なのだろうか。


 揺れる死体を見つめ、思う。


 自分には、これしかないのだと。


 例え、理りに逆らおうと、彼女を生き返らせる。それが私という存在だ。



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