第2話 何をすれば良いのやら

さて…勢い良く歩き出してみたものの…


『何をどうしたら良いのやら…』


というのが本音である。


とりあえず神様より依頼された業務内容とは、厄介な者をとりあえず押し込んで放置した並行世界の観察業務であり、よくある転生モノの様にトラック等を経由した正規ルートでない俺には、【魔王を倒せ!】などという無理難題が与えられない代わりに、【のんびり異世界ライフ】という楽しげな選択肢も与えられて居ないのである。


引きこもりだった俺には最高の罰とも言える家なし放浪ライフ…いや、この森の感じと着ている毛皮から【狩猟と採取によるサバイバルをしながら放浪】という、もう一段過酷な異世界ライフが始まってしまっているらしいのだ。


あのユルいボクチン神様が、


「現地で死にたてホヤホヤの体をチョチョイと神様パワーで治してキミの魂をねじ込むから気楽に観察してきてよ…ノルマとかは特にないから焦らなくて良いからね。ボクチンはココでエルフちゃん人形でも作りながら報告を楽しみ…いや、別に楽しみでは無いけど、上の爺さん達が煩いからね…」


などと送り出してくれたのではある。


しかし、俺が


「いや、そんな干渉が出来るのならば直接神様がチェックしたら早いでしょうに…」


と文句を言ってやったのであるが、ボクチン神様は、


「え~っ、面倒臭いじゃん…では、いってらっしゃ~い」


と、まるで鏡を見ているかの様に俺の言いそうな言い訳を言っていたのである。


だけど、俺としては閻魔大王様からの派遣という経緯がある手前、職場放棄などという選択肢は無く渋々ねじ込まれたのがこの体なのだ。


「ヤバダバドゥー」


と叫びそうなアメリカの原始人キャラクターのような毛皮の服に、ベルト替わりなのか腰に巻かれた革ひも、そして毛むくじゃらな腕に、触った感じ頭頂部まで地肌な髪から推測するに、【原始人のオジサン】と言った感じの雰囲気のこの体の持ち主は、何故あのような森の中で死んでしまったのかは分からないが、神様からも、


「とりあえず死にたての体を選ぶね、死んだ理由までは選り好みしないから…病気なら治せるけど、敵が近くに居たらゴメンね」


などと怖い事を言われていたし、【死にたての体】というのは、可能な限り人に近いタイプを優先というだけで獣は勿論のこと、この並行世界も分岐する前はエルフ族の住む剣と魔法のファンタジーな世界の為に【魔物】なんていう場合すらあるので、原始人風で人種までは分からないが、とりあえず人類の体にホッと安心している自分がいるのは確かである。


そして、この神様も見捨てていた世界で俺がするのは神様の目となり世界を観察するというお仕事…といえば聞こえが良いが、【神様が見捨てた】という事は神様からの恩恵も薄くなり、またそんな神様を信仰する者も皆無であろう…いや、下手をすると見放したボクチン神様のアンチしか居ない完全なるアウェイな世界である。


しかし、ボクチン神様は親的なポジションの上位の神様から、


「お前の世界から派生した世界だから責任を持って管理しなさい!」


と叱られてしまい、この押し入れ代わりに追放者をブチ込んだ世界へと、庭先の放置された物置小屋をチェックでもする感覚で、


『掃除とかはいいから、虫とか蛇が居ないか見るだけ見てきて…』


みたいなノリで送り込まれたのが俺…という流れなのである。


何にもしてくれないボクチン神様に愛想をつかせて【アンチ神様を最高神に…】を合言葉にでもしていそうな追放者達がいる世界では、勝手に神様を名乗る者が現れて、好き放題しているうちに本当に信仰を集めて敵対神になる場合もあるらしく、俺の業務としては、


【文明のチェック】


が1つと、


【送り込んだ者と元から居た者の現在】


を調べるという大きな目的と、可能であれば現地の動物などのチェックをするという仕事が与えられている。


「植物は種類が多すぎるから…」


との理由から神様が観察業務から外してくれた事には感謝しか無いのだが、その観察業務としては俺の魂にボクチン神様が与えてくれた3つの特殊能力であるスキルを使う事になる。


まず一つ目が、【言語スキル】である。


コミュ障気味の俺に当て付けのような、


『どの言語の人とも話せて、どんな文字でも読める』


というスキルであるが、あくまでもボクチン神様の世界ベースの為に放置された世界ではガクンと精度が落ちる可能性がある。


続いて二つ目が、【鑑定スキル】で、


見たモノの詳しい説明が脳内に現れるらしく、こちらは器となった人物の記憶が使えれば、どの世界でも使えそうであるが…やはりボクチン神様クオリティーの為に、神様の管理している世界基準となり、この知らない世界で進化したモノは亜種や変異種となる前の近いモノを教えてくれるだけとなる。


まぁ、詳しい種類までは分からないにしても『毒』が有るかなどおおよその事は解るので、


【そこら辺の草を食べて即死】


などという恥ずかしい失敗は避けられそうである。


しかし、唯一の欠点は使用者のレベルに応じて、あのボクチン神様が管理している【世界の記憶】から情報を引き出せる量が変わるらしく、魂の修行を怠って派遣された俺の魂のレベルは勿論低く基本情報のみである点だけがネックであるが…今後の俺の魂のレベルの成長に期待したい。


さて、この二つのスキルを完璧なモノに近づける為の神様イチオシの最強スキルが三つ目となる【食べて解析スキル】なのだ。


少々時間は掛かるが、神様も知らない感じに変化した平行世界の言語でも、その言語を使う者の髪の毛など体の一部を食べる事により…


『って、気持ち悪い発動条件だな…』


とは思うが、青い猫型ロボの生コンニャクを食べるタイプの翻訳機能だと考えれば、


『調理前の生コンニャクを一枚食べるより髪の毛1本の方がハードルが低いかな?』


などと考えてしまう。


あとは、鑑定スキルでも判らないモノや、あまり詳しく無い判定のモノでも体内に取り込めば勝手に鑑定スキルの項目が解析結果に応じて更新されるというものであり、なんと此方は自分で【世界の記憶】に登録するからか、レベルによる閲覧制限なく解析結果の全てを鑑定スキルを通して読めるのだという…まぁ、最強スキルにもやや欠点というか、【体内に取り込む…】という発動条件からの注意点があり、


「致死量たべない…あと毒無効スキルとかは持たせて無いから痺れたり下痢する事も考えて無闇に知らないモノを口にしない」


と言った具合がボクチン神様からの有難い教えである…


「いや、ならば状態異常無効スキルとか下さいよ!」


と、ゴネてはみたのだが、


「いや、キミの魂のレベルでは…これ以上の数のスキルは…フフッ」


とボクチン神様に鼻で笑われてしまい大変不快な思いをしたのである。


『これも全てから逃げた俺への罰か…』


と俺は諦めたのだが…冷静に考えれば病死の可能性もゼロではないが、実際にこの体の持ち主が死んだのは森の中である…


『獣…いや良く分からない魔物とか出て来ないよね…』


などと、死亡原因について些か不安になり、俺は一旦足を止めて辺りを警戒してみる。


『おい!いざという時の武器すら無いじゃないか…この手の話に良くある索敵、チート武器、アイテムボックスぐらいサービスして欲しかった…』


と、手ぶら状態の自分を再確認して少しだけではあるが、あのボクチン神様を恨んでみたのであった。


しかし、今更ギャアギャア言った所でどうしようも無い事ぐらい理解している俺は、


『とりあえず見た目が【完全体原始人】と言った具合に完成しそうで嫌だけど手頃な枝を拾って棍棒にするかな…』


と考えて、辺りを見回す…勿論、獣の気配にも注意しつつである。


それから森を探し回ること暫く、何だか手頃なサイズのコブつきの枝が幾つか落ちている場所を見つけた。


『なんかマラカスの親玉みたいなのが落ちてるけど…』


と思いつつ、その中の一つを拾い上げ軽く振ってみるが、残念ながらシャカシャカという軽快な音は鳴らなかったが、その代わりに物凄く振り回しやすく軽く、試しに側に生えている木を叩いてみたが折れも割れもせずに、


「カコーン」


と小気味良い音が鳴り響いたのであった。


『おっ、固さも十分だな…よし棍棒ゲットだ!』


と喜ぶ俺だったが、ここで、


『あと二つほど同じサイズのが有るけど…カバンも無いから持って行けないなぁ』


と、あまりにナイスな棍棒と出会い、


『スペアも欲しいな…』


という欲の部分と、


『いや、邪魔になるだけかも…1個で十分』


という現状の狭間で揺れ動いていたのである。


脳内会議で、


『ほら、マラカスみたいだし二つでワンセットとして…ねっ』


という意見と、


『要らない、要らない、マラカスじゃなくて棍棒だから…2つで一つのマラカスにする必要性がないよマラカ単品で十分』


という意見に別れ、


『壊れたらどうする?』


だの、


『スペアなんて邪魔になるだけ…』


などと熱い議論の結果、俺の中のメガネキャラが静かに、


『ここは異世界だぜ…こんなに同じようなモノが複数落ちているということは、この棍棒が何かしらの木の実…のようなモノという可能性もゼロではない…』


と言い出し、


『議長、このマラカの鑑定を提案致します。名前さえ解ればスペアを持ち歩かなくても再び手に入れれるかと…』


とナイスなアイディアを出す…という妄想会議の結果、手にある棍棒を『鑑定するぞ!』という強い気持ちで見つめると、


【木の枝…詳細は不明】


という文字が頭に浮かんだのであった。


『枝なんだね…木の実じゃ無かった…』


と推測が外れたメガネキャラの脳内人格が静かにうつむくのだが、周囲の脳内議会の議員達が、


『はい、食べろ!食べろっ!!』


と、食べて解析スキルを使えと煩いのである。


『いや、結構固いよこの棍棒…』


とドン引きする俺だったが、


『まぁ、試してみるか!』


と棍棒を近くの石に擦り付けて木屑を作りだし、それをペロリと食べてみたのであった。


※良い子も悪い子もマネをしない様に…

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