教室はパラレルワールドの入り口

浅川 六区(ロク)

999文字の物語(2分で読めるショートストーリー)


「違う。ここはいつも私が住んでいる世界じゃない」登校してすぐに、私は違和感を確信した。

 この教室の窓側から二列目の、いつものこの席も、…何かが違う。


 クラスメイトたちが少しずつ登校して来ていて、教室内も段々と騒がしくなり始めている。

 私の小さなその音声を聞き取り、隣に座る親友の菜々美ちゃんが不思議そうに首を傾げている。


 その菜々美ちゃんの顔を見ると、彼女は半笑いしている。あれ?これはいつもと同じだ。いつも菜々美ちゃんは半笑いをしてた。

 授業中も、先生に怒られている時も、テスト中に私の答案用紙をコッソリ覗き込む時でさえも、必ず半笑いの表情をしている。それはいつと同じだ。

 こっちの世界でもそこは一緒なのか…。でも…違和感はぬぐえない。


「ねえ夏ちゃんどうしたの?なんか変だよ」菜々美ちゃんは私を心配して話しかけてくれた。

「あ、菜々美ちゃん…なんかこの世界、いやこの教室、いつもと違うように感じるんだけど…菜々美ちゃんはどう思う?」


「え?いつもと違う? うーん…私は同じだと思うけど」

「そ、そうなんだ…菜々美ちゃんには…いつもと同じなんだ」


 慌てるな私、私は夏子、この学校でも可愛いランキングでは絶対上位の女子だ。

 不安を感じることはない。自分を落ち着かせるために、いつも思っている“安心のおまじない”を祈るような気持ちで呟いた。


 この状況は、タイムリープ系の映画や小説で良く見るお決まりのアレだ。

 いや待てよ…本当にタイムリープしたのなら、きっかけとなるトリガー現象があったはずだ。思い出せ…。ありがちなのは、神社の境内で転んだ拍子に、とか。図書館で偶然見つけた古文書を開いた瞬間とか…。

 昨日からそんな場面シーンには遭遇していない。となると…トリガー無しのいきなりリープ?そんなバカな。主人公の私が、トリガーが分かってないと元の世界に戻ろとした時に困難をきたしてしまう。


 そんな思考を巡らせていると、教室の前のドアが開いて、担任の青野先生が入って来た。

「みなさんおはようございます。それではホームルームを始める前に、昨日の宿題を回収しますね。宿題のプリントを後ろから順に前へ送って下さい」


 私は、先生のその言葉が教室内に響き終わると同時に、挙手をして告げた。

「はーい先生!私、違うんです。みんなからはいつもと同じに見えるかもしれませんけど、この世界の夏子じゃないです。別の世界からこっちの世界に入り込んでしまった別の世界の夏子なのです。私にとっては、こっちの世界は、パ、パラレルワールドなんです。だから昨日の宿題は…」


 先生は眼鏡を触りながら抑揚のない声で言った。

「はいはい夏子さん、宿題を忘れたのですね。わかりました。放課後の奉仕活動を、

六十分間お願いしますね」

                                                                  Fin

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教室はパラレルワールドの入り口 浅川 六区(ロク) @tettow

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