憧れてた世界へ転生したけど・・・。2話
オーディル大陸。
世界の南西に位置し、大国が3分割している大きな大陸。
3つの国家によって成り立っており、知性のリディルディア、力のディバイバス、富のスペルディアの三国間で、それぞれ、知性は学問、力は武勇、富は金や商売、といった分野に分かれており、3つでいわば一つの大国のような大きな役割があるにもかかわらず、3国ともに分割して共存しながら生活していた。
北方にある魔族大陸とは敵対関係である3国は、迫りくる危機から身を守るべく、3国共同で大きな都市と学園を築き上げ、その中心となっているのが、知性のリディルディアである。
3国の中でも唯一ここだけが魔法に特化した学園があり、魔族や魔物、迫りくる脅威から人々を守るべく、日々学生たちが研鑽を積む学び舎となっていた。
そこに通う事、入学できることは名誉であるのだが、学園始まって以来の大惨事となっているのがまさにリデル本人であった。
入学して1年、たいして魔法も使えず、落第寸前となっていたリデル。
「母さん、母さん!」
自宅へ戻ったリデルは母を探しつつ声をかけた。
「なによ、帰ってくるなり・・・何その恰好」
セリアが台所から居間へとかを見せれば、そこにはボロボロの格好のリデルが実にすがすがしい笑顔で立っていた。
「ちょっと頑張っちゃったんだけど。魔術で負けたわ」
「はぁ~。ほら、動かない。慈愛の女神の名のもとに、かの者に癒しを」
セリアがリデルの頭に手をかざすと、鈴の音が鳴くような透き通った声音で詠唱を行うと、エメラルドグリーンの帯が柔らかな煙の様に、傷となっている場所に触れ、ゆっくりとその傷を塞ぎ、癒し始めた。
数分もしないうちに完全に傷は塞がり、痛みも引いていた。
「あんがと。ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど、魔力って数字化してるじゃん」
「お礼も早々にナニ? まぁしてますけど、それがどうしたの?」
「アレって、0になると魔力切れで良いんだよね?」
「そのはずよ・・・・まぁリデルは魔力が35しかないんだからたいして魔法は使えないわよ」
「それは知ってるけど。使えはするじゃん」
そう、魔力は少なくはあるが使えない、という話ではなく、リデルとしては使える、そしてその現象を起こせるという事が非常に重要で、転生して初めて感動したのもそこであった。
「それで何?」
容量のえない話であったためか、セリアが小首をかしげつつリデルに聞く。
わが母親ながらそのしぐさがとても可愛らしく、前と同じ年なら絶対に結婚してくれと懇願するぐらいだ。
「魔力って、貯めることできないの?」
「え? どういう事?」
「だからぁ、えっとタンクに貯める・・・・って言っても通じないか。お金にするみたいにできないのかって話」
「う~ん・・・・聞いたことないわね。本来魔力は体内にあるもので、それをみえる形で貯めるとかは。あ、でも魔剣とかもあるんだし、案外できるかもしれないわよ」
魔剣、この世界で唯一誰もがそれぞれの属性を宿した攻撃や現象を引き起こすことができる道具の一種だ。
火、風、水、氷、土、木、月、光、闇、神聖魔術。これらがこの世界で使える魔法の種類で、魔剣はこれら一つ一つに存在していると言われているだけでなく、その力を宿した道具なども存在しているという。
魔力0や、魔法の才能の無い人でも使う事が出来るが、魔剣などの貴重なものの存在が本当にあるのかというのは一部の人間以外知らない。
「毎日さ、俺の魔力を何処かに貯められないかな? そしたら、ちょっとしか使えない魔法も使い放題とは言わないけど、ストック分までなら使えると思ない?」
そう、10歳で入学し、必死にこの世界の事を勉強しつつ、ぼんくらの自分がどうやれば魔法を色々な形で使う事が出来るのか、というのを必死で考えて出てきた答えの一つがこれだった。
リデル的には、元居た世界であった電池という仕組みを魔力と魔法に置き換えてみたのだが、残念な事にこの世界にそういう魔法を貯蔵するという発想そのものがないらしく、いくら探してもその答えとなりそうなものが出てこなかったのだ。
結果、詳しそうな自分の母に聞いてみるのが一番だとリデルは判断した。
リデルは落ちこぼれという烙印だけでなく、それをネタに同級生から良いストレス発散のはけ口にされており、絶対に魔法で勝てないリデルに対して魔法で勝負を挑んでくる輩が後を絶たなかった。
絶対に勝てる、すぐ魔力切れを起こす。
その確信があるからこそ彼らはリデルを標的としていた。
対するリデルはと言えば、どういうわけか年の功(前世の記憶35年)があるのだから適当にあしらいつつ逃げればよいものを、律儀にすべて受けていた。
あまりにすべて受け付けるため、母であるセリアが一度彼に「なんで怪我するのわかってて受けるの!」「母さんが治してくれるだろ? それに色々な魔法が見れるのが楽しいんだ!」などいう斜め上の回答にセリアが頭を抱えたのは言うまでもなかった。
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