第7話 東京観光と第4のスキルを覚える方法を模索する
「しかし東京は広いな」
「そうねたまに来るけど良いところね」
「私はニッポンバシのほうが好きです」
東京観光としゃれこむ。
大阪梅田のゲートを潜り抜けた俺たちを出迎えたのは、高層ビル群に囲まれた、異様に殺風景なトーキョーベイダンジョン周辺だった。
「わぁ……」
ひとりが思わず声を上げたのは、目の前にそびえ立つ、ダンジョン専用の「スキル市場ビル」だった
「みんな、なんだかギスギスしてますね。ニッポンバシのお兄さんたちは、もっと人情味があったのに」ひとりが周囲の探索士たちを指差した。
その通りだ。ここで働く探索士たちは、全員がプロの顔つき。彼らがスマホで確認しているのは、次の階層の攻略情報ではなく、「ミスリル鉱石の国際相場」や「【鑑定】スキルの市場価値」といった、ビジネス情報ばかりだ。
「ここじゃ、スキルは『能力』じゃなくて『資産』なんだな」俺は思わず呟いた。
「一本の【錬金術】スクロールで、うちが今まで稼いだ金全部が消し飛ぶ……」ホノカが掲示板に表示された価格を見て、青ざめた。数千万円という額に、フリーターだった頃の感覚は完全に麻痺する。
俺の目標は10個。今、俺が持つのは【轟弾】【魔眼】【カウンター】のたった3つ。そして、そのどれもが戦闘系だ。
「こんな場所で生活するのは無理にゃ。ストレスで髪の毛が抜けそう」ホノカが猫耳を撫でる。
「じゃあ、少し気分転換といこうか。せっかく東京に来たんだ。観光でもするか」
「え、観光ですか?」ひとりが目を輝かせた。
俺たちはダンジョンエリアを離れ、電車に乗って都心へ向かった。
最初に訪れたのは、秋葉原だった。
「なんだこの街は……」
俺が驚いていると、ホノカが興奮気味に腕を組んだ。
「ふふん、マサタカは普通キャだから知らないでしょ。ここは『オタク文化の聖地』よ! あそこを見て!」
ホノカが指差したのは、大きなビルの壁に描かれた、人気アニメのキャラクター。その横には「スキルスクロール買取査定UPキャンペーン中!」という巨大な看板が並んでいる。
「アニメとダンジョンが融合してる……」ひとりが呟く。
「あの店は、限定ポーションと『魔法少女』グッズを一緒に売ってるにゃ!」ホノカの目の色が変わった。彼女の女王様(変態)の部分が刺激されているのが丸わかりだ。
俺は【魔眼】で周囲の人間を解析する。一般客の中に混ざって、隠密スキルを使って観光している探索士がちらほらいる。彼らが買っているのは、スキルスクロールではなく、最新の「錬金術のレシピ本」や、「ダンジョン経営のハウツー本」だった。
「なるほどな。東京のプロは、観光中でも情報収集と勉強を欠かさないってわけか」
俺は、ここでようやく価値観の違いを理解した。大阪ではバイトの延長だったダンジョン探索が、東京では「人生を賭けたビジネス」なのだ。
「俺たちも、次のスキルを探すか」
俺たちは、賑わう秋葉原の街を少しだけ観光する
───俺たちに必要なのはこの東京で生き残り、最強を目指すための「戦略」と「4つ目のスキル」だ。
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