星座に導かれし戦う乙女はかくあるべきか~踏まれない人生を送りたい~
白色らんかん
プロローグ
――
ボサボサの髪をかき上げながら一人の白衣の男が熱心に電子顕微鏡を覗きガラス張りの実験室中央にある赤い鉱石と思われる物体に遠隔アームを近づけて操作している。
「ふふ、やはりコレは本物だったのか…」
目の下にくまを作りながら石内部の何かの様子を映したモニターを見つめるその瞳には狂気に近い何かが走っていた。
「これは人類の進化に必要な新しいファクターになりえるはずだ」
男が浸る世界の静寂を破る様に、突然研究室のドアがノックと同時に開かれ
「
月緒博士と言われた男は目を血走らせて入って来た職員らしき男を睨めつけて頭を掻きむしった。その形相と机を叩く音に職員は怯み二、三歩後ずさりする。
――バンッ!!
「あ”あ”!!何故この大事な時に親父はくだらない連中の相手をさせようというのだ!兄貴が適当に相手してやればいいだろう!!どうつもこいつも邪魔ばかりする」
「し、しかしこれは会長直々の‥‥‥ああっ!」
職員は恐れ戦きながらも食い下がろうと一歩前に出たその瞬間、ガラスの向こうで複数のアームに囲まれた赤い鉱石は部屋全体を紅く染め上げる様に眩いばかりの光を放つと博士は歓喜の声を上げる。
「ふは、ふははは!やはりそうか、素晴らしい!!素晴らしいぞ!!!」
解き放たれる光によって男の影が部屋の壁に大きく映り込み、その狂気が職員の目には悪魔が乗り移ったのではないかと思う程であった。そして石の中にまるで生き物の様に
◇◇◇
同日 18時24分
――ヒューン
一台の紅いSUVが河川沿いの幹線道路を疾走していた。綺麗な道路は最近再舗装された様で、路面状況による車の振動も少ない。
「ふぁあ~あ」
助手席で寝ていた女性が大口を開けて欠伸をし、後ろに少し下げていたシートを元の位置に戻した。
「なっちゃん、そんな大口開けてると化粧が崩れるわよ」
ハンドルを握る同じ年のスーツを着た女性は隣を一瞬チラ見して視線を戻す。
「いいのいいの、これから会う奴なんて敷島のじーさんとアイツなんだから」
そう言いながらもルームミラーを自分の顔に合わせて手櫛で髪を整えてる姿に運転手の女性は苦笑する。
「とは言え、各国からも著名な科学者も沢山来るし、こちらにもご丁寧な招待状まで送ってくれたんだから最低限おめかしした姿で会ってあげないとね」
「早乙女ちゃんは真面目だなあ」
「あなたが大雑把なのよ。それより娘さんは休日なのに一人お留守番?」
「あの
そう言って手元のバックを開くと布巾とラップに包まれたおにぎりを数個とりだした。
「あら、おこわのおにぎりなんて素敵ね。パーティーで出て来る高級料理より気が利いてるわ。小学生なのに偉い!私の娘に爪の垢でも飲ませてやりたいわね」
「あらお宅のノアちゃんだって凄いって聞くわよ。あ、自動運転に切り替えてね」
「外面がいいだけよ」
――ピッ
〔オートドライブになりました〕
自動運転となりハンドルから手を離した早乙女の口におにぎりを咥えさせると、後ろの座席から別の手が催促する様に伸びて来た。
「わしにも頂戴」
「あら、お父さん起きたの?もうすぐ会場に着くから一個だけね」
手の平の上に小さなおにぎりを置くと後部座席から
しばらく車を走らせると山影から周りの景色と不調和な巨大な敷島重工綾崎工場の真新しい白い建物が見えて来ると眉をひそませる。
――敷島重工、世界大戦をギリギリ踏みとどまっている世界情勢はまだまだ不安定さが残る。そうした時期に創始者の
〈外骨格装備…人が着込むと体長3~4mになり、人の動きをトレースする装甲服〉
二代目の
問題は色々黒い噂のある次男の
世間が敷島重工に席巻されているそんな中、町の小さい研究室で宇宙開発用に作られた新素材、安定し強靭な多層ナノマシンスーツを開発した蟹江研究所は発表直後から敷島に目を付けられ、執拗に共同開発を誘われていた。
その最中でのお披露目パーティーのお誘いである。お世話になった海外の博士も出席となっている事で渋々参加する事となった次第であった。
建物に続く道路を進むと、一度目の検問で乗員と車をスキャンされ、更にその先に進むと銃を持った警備員と軍用FFAの兵があちらこちら目に入る様になってきた。
「敷島自慢のFFAね。あんな得体の知れない赤石載ってるのによく使うわ、あ~やだやだ」
「たしかにオカルト的に感じるけど今のところはコレと言って
「今のところはね…正直、サンプルを触った時からちょっと不気味に感じてたわ。あれは…ただの石じゃない様な気がする。もっと何か違う生物的な…」
早乙女は隣で眉間にシワを寄せて何かを思案している相方に一抹の不安を過らせながら話を切り替えた。
「私も得体の知れなさを感じるわ。でもまあ何かあったら敷島の責任だしあまり関わりたくはないわね。さ、次の関所よ」
「ここに居るってだけで十分関わってるわよ」
物々しい警備に
各国研究者を乗せて来たであろう高級車が立ち並ぶ駐車場の空きスペースに紅いSUVが止まり、エレベーター前で待っている案内人の所へ三人で歩みを進めると、突然聞き覚えのある男の声が後ろから掛かる。
振り返るとそこには厳ついSP4人に囲まれ、気難しそうな秘書を従えた背の高い紳士が後ろ手に立っていた。
「おや、
「フフ、素敵なバリトンボイスが聞こえたと思えば敷島代表取締役社長ではないですか、お久しぶりです。本日はお招き有難う御座います」
「おや?博士のお母様は出席ではない?」
三人の様子を見ながらライバル会社でもある敷島嫌いの母が居ない事にわかっていながらも聞いてくる。
「特定の人物の居る場所に近づくと発っしてしまう持病の腰痛が出ましてね、今日は家で養生しています」
「それは残念です。親父も
少し棘のある言い方をしても彼は気にもしてない様に続ける。言われ慣れてる様子で無反応なのも癪だが。しかし、横に居た若いインテリっぽい秘書とSPには効いた様で彼女らに敵意を向けていた。
「いい酒はあんのか?」
険悪な雰囲気の中、空気を読まず後ろに居た瓶底眼鏡の初老のオジサンが目を輝かせながらそう言うと、敷島社長は笑顔を作りエスコートをする様に手で行き先を示す。
「勿論、各種洋酒、日本酒、年代物まで色々取り揃えていますから
「そうかそうか、そりゃ楽しみだ」
秘書を手で制止して、敷島社長のSPに囲まれながらエレベーターに乗り込むと
静かにドアが閉まり。駐車場には静寂が戻り始める。
――その2時間後、祝賀会場のあった白い巨大な建物は巨大な爆発音と共に炎に包まれる事になる。
◇◇◇
ゴォォオオオン!!!
――突然鳴り響く轟音と共に少女は目を覚ます。
算数の宿題を片付けていた最中、寝落ちしてしまった様だった。タブレットに落ちた
ザワザワとした近所の人々の声が外から聞こえ、二階にある自室の窓を開けると遠くの山の
「…お母さん?」
手に握られたスマホの画面は沈黙を守っていた。
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