第6話 新秋

9月3日

気温が徐々に落ち着き秋を感じる季節がやってきた。

夏の出来事はあまり思い出したくないけど私の生きた証として日記に残しておくことにしました。

夏休みの間大翔はほとんど顔を出してくれませんでした。

夏期講習にバイトも始めたみたいです、バイトは何のために始めたか私にはわからないけど。もしかしたら友達でも出来たのかな私の分も青春してほしいです。

もうすぐ私が入院して1年が経とうとしています。

出来る限り思い出を作りたいし頑張って延命治療を受けると大翔と約束をしました。

最近はたまに体に痛みを感じるときもあります。本当に私病気なんだなと改めて実感しました。


少し時が遡って8月2日

大翔は夏期講習を終えた後居酒屋でバイトをしていた。

「兄ちゃん!生2つ!」「こっちはハイボールね!」

大きな声が飛び交う個人店の居酒屋

「はい!!」

大翔はジョッキを3つ持ち客の元に向かう。

「兄ちゃんバイトか偉いね!高校生だろ、なんか欲しいものでもあるのか!もしかして彼女か?」

居酒屋でいい感じに酔っているおじさんに声をかけられた。

「いや!欲しいものがあるんじゃないんですよ!」

大翔は笑顔で対応する。

「じゃぁなんのために?」

おじさんは聞く

「学費っすね!自分医大目指してるんで、自分のわがままで親に無理させられないんで!」

大翔は頭を押さえ笑顔で答えた。

「なんだお前。。。。くそ良い息子じゃねーか。。。。おっさん泣けてきたわ」

おじさんは涙を浮かべ立ち上がった

「今日は俺のおごりだ!全員好きなだけ飲め!この坊主の給料だ!!」

そう叫ぶと店内は大盛り上がり。店が揺れるほどだった。

どうやらそのおじさんは大手企業の代表みたいで味が好きでこの店によく来る常連だったみたい。

夏期講習とバイトの日々を繰り返す日々おじさんも定期的に顔を出しては話をしてくれた。

もちろん結衣の話も。

「兄ちゃんよ、その子好きなんだろ。嫌な思いするかもしれねぇがおっさんの戯言だと思って聞き流してくれ。後悔する前にちゃんと自分の気持ち伝えとけ。いなくなっちまったら言葉すら届かなくなっちまうぞ。俺も女房にちゃんと愛してるって伝えりゃよかったと後悔してる。そんな思いしてほしくないんだよ兄ちゃんには。」

重い言葉だ、でも温かくもあった。

「人生に後悔はつきものだ。今までもいろいろ後悔してきたろ、なんで人は後悔すると思う。」

おじさんの一言に俺は「わかりません。」と答えた

「それはな、本当に大きくて取り返しのつかない後悔をしない為に人は小さな後悔を繰り返すんだ。必ず選択を迫られる時が来る、その時今までしてきた小さな後悔を糧に進むのが人だ。だからちゃんと向き合え。その幼馴染と」

気づけば涙があふれていた。

「あ、あれ。俺、ごめんなさい。なんで」

慌てて涙を拭う。おじさんは笑顔で頭を撫でてくれた。

「気にすんな、俺らは兄ちゃんの事気に入ってんだ。好きなだけ泣けばいいさ、よく頑張ってるぜ兄ちゃんは」

初めて、認めてもらえた気がした。

俺は褒めてほしいから頑張ってたわけじゃない、だけどこう言われたのは初めてで心の中で暗く閉ざされていた何かが晴れたような気がした。

居酒屋で酒を片手に俺のことを優しい目で見てくれる大人たちが輝いていてかっこいいって思えたんだ。

ちゃんと向き合う。やってきたつもりだったけど、目を背けていた部分もある。

そんな部分を見抜かれるなんて思わなかった、やっぱおじさんはすごい人だ。


9月5日

私は今日秋を感じる風になびかれながら。

大翔に好きだと言われた。

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