第2話(ちゃんぬ)
「その、お二人は仲が良いのですね」
土佐も空気に流されたのか、人当たりの良い二人の若者のことが気になったのか、好奇心が思わず口から出た。
「ああ、私たち愛媛の出身で、幼稚園からずっと一緒だったんです。同じタイミングで東京出て、なんと大学まで。さすがに会社は違うけど」
「それは……漫画みたいだ」
玉井の説明を受け、先ほど話題に出た“彼氏”は土井に対してどんな感情を持っているのだろう、と余計なことを考えてしまう。
「田舎だと高校まで一緒はそこそこありますよ。家から通える進学校って限られてるから」
乾いた口調で土井が口を挟む。何度も同じようなことを言われてきたのだろうか。
「たしかに、言われてみると納得ですね。でも社会人になってもそうやって仲良くできている友人がいるのって、羨ましいです」
つい、饒舌になる。
「……自分は、新卒で入ったところがすごいブラックで、でも無理して5年も働いて。体壊して退職した頃には誰とも疎遠になってました。なかなか次の就職先が決まらなかったからしばらく金もなくて、一年空いてようやく前よりマシな会社に入れたけれど、結局また仕事しかしてないうちに…もうアラフォーです」
一気に身の上を語ってしまってから、困ったような、憐れむような、いくつもの感情が入り混じった表情で自分を見つめる二人に気づき、土佐は我にかえった。
「あ……すみません。初対面の方に、急にたくさん自分の話を」
「いえ、いいんです」
土井が柔和に笑う。愛想笑いではなく、本当に土佐を赦しているような表情に見えた。
しばらく、凪いだ水面で沈黙する浮きを見つめていた。先ほどまで賑やかだった二人も、それぞれの物思いに耽っているようであった。
そのまま数十分が経過しただろうか。まだ11月といえども夜の海は冷える。身震いした土佐の様子に気づいた土井が再び口を開いた。
「こういう寒い日に海を……いや、水面を見ると考えることがあるんですよ」
「ちょっと!まだ……」
土佐が反応するより早く、玉井が驚いたように素早く言葉を制止したが、土井は何かを決心したかのように頷くと、獲物のかかっていないルアーを引き上げた。
「俺と理沙は愛媛の幼馴染だって話しましたけど、もう一人いたんだ。年上の友人が」
そしてその目は、真っ直ぐに土佐を見据えている。ひゅっと、北風が土佐の頬を撫でた。
「
ウルシヤショウゴ。漆屋翔吾。土佐の大学時代の後輩の名前だ。
着衣のままプールに沈む漆屋の後頭部が、冷たい風の感覚と共に土佐の視界によみがえった。
早く引き上げないといけないと分かるのに、土佐の足は動かない。
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