第7話 ヒダ星の魔女との交渉
ヒダ星、かつては繁栄し今は忘れられた廃墟だらけの星。ほとんど訪れる者のいない星の唯一の繁華街の一角に、その古びた雑居ビルはあった。隻眼の、常人ならざるオーラを纏った老人が地下三階の年老いた女占い師の店の扉をたたく。
「シャトー・P・L・コンテス・ド・ラランドの60253年のビンテージがあると聞いてきたのだが?」
「そんなものはこの銀河の何処にもありゃしないよ。コンテスは59953年に廃業したのを知っているだろう。それ以前にここはビンテージワイン屋じゃないからね」
大柄で極端なカギ鼻、顔中皺だらけの魔女と言っても通じそうな女占い師が応える。
「いや廃業の三百年後、一度だけ、吸収したバロンの銘柄ではなくコンテス銘柄で醸造した樽から取ったビンテージが十二色ほどあったはずだ」
「ここはワイン屋じゃないって言ってるのに……。それでビンテージワインがあったとしたら欲しいのは赤かい? 白かい、まさかロゼなんて言わないよね?」
「レッドとブルー、そしてシルバーの最高のビンテージを一人づつ」
占い師は、その言葉を聞くとそれまでのふざけた調子から様変わりした厳しい目つきで言葉を返す。
「人気上位の三人を持っていく気かい? ブルーが若干若いけれど、最高のトリオだね。この星が買えるほどの金額になるけれど払えるのかい?」
「雇い主は、現時点で銀河の半分を実効支配している男とだけ言っておく」
「レオニダスかい。ということは、あんたはハンニバルだね?」
隻眼の男は肯定も否定もせず、首を傾げる。
その瞬間、数十本の赤い光の軌跡がハンニバルと呼ばれた男の全身に照射される。
「動くんじゃないよ。どこで影達の情報を掴んだのか言いな。さもないと蜂の巣になるよ」
女占い師の威嚇に動じることもなく、老人はゆっくりと眼帯を外して失われたはずの片目を見せた。
「その眼……あんた、まさかヒダの創設者の一人、赤目の市なのかい? まいったね、まだ生きていたんだ!」
そう言って笑い出した彼女の目配せで、ハンニバルの全身の赤い光点が消える。
笑いが収まると彼女は商談を再開した。
「影達にさせる任務は?」
「銀河中央に向かうレオニダス将軍の護衛」
「影達の届け先と届け日は?」
「惑星ニブルヘイムの将軍の執務室に、二週間後」
「契約成立だね。サービスであんたたちの旅の未来を占ってあげるよ」
年老いた魔女はタロットカードをめくって予言の言葉を伝える。
「月の正位置、予期されない危険……これまで誰も出逢ったことのない災厄と遭遇する旅らしいね」
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