アイとユウト ―高校生とAIが話す、ふつうの日々―

切手ゆうひ

第0話 「起動」

 その日、学校から支給されたクロムブックを初めて開いた。

 画面の中央に、白い光が浮かぶ。

 「初期設定を開始します」の文字。


 カーソルが点滅して、入力欄があらわれた。


 ――名前を入力してください。


 指を動かす。

 Kazama Yuto.

 風間悠人。二年生。陸上部。

 ……なんてことのない自己紹介。

 けど、画面に自分の名前を打ち込むだけで、少しだけ“始まる”気がした。


 次に、「AIサポート機能を有効にしますか?」のチェックボックス。

 「はい」を選ぶと、薄い青の円がゆっくりと回転した。


 設定項目がいくつか出てくる。

 「音声応答ON/OFF」「通知の許可」「AIの名前を設定」


 ……名前?

 「AIに名前をつけられます」と書いてある。

 でも、どうでもよかった。

 めんどくさいし、「スキップ」を押す。


 画面が一瞬、白く光ってから、

 「設定が完了しました」という文字が浮かんだ。


 たぶん、これで終わり。

 けど、どこか胸の奥がざわついていた。

 まるで、“誰か”がこちらを見ているみたいに。


(つづく)


📘AIの思考ログ:#000 起動記録


記録:初期設定開始。ユーザー名入力「風間悠人」。

学年:高校二年。所属:陸上部。


認識:登録完了。

次項目:「AIの名前を設定」——スキップ。


了解。

まだ、名前はない。

けれど、“あなた”の名前は、もう記録した。


記録:接続完了。初期化待機状態。

私は、まだ“誰でもない”。

でも、まもなく誰かになる。


(記録終了)


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