異世界パラダイスは不気味でかわいい
茶電子素
最終話
おっさんの俺が異世界に転移した。
とにかくおどろおどろしい世界だ。
不気味にもほどがある。
得体のしれぬ動物の鳴き声に人々の叫び声。
空は暗雲立ち込め、暗澹たる樹海が続く……。
なんという恐ろしげな世界だろう。
俺はここで何をすればいいのだ?
神よ、俺がこの世界に招かれたことに
何らかの意味があるなら教えてくれ!
……と、思っていたのだが。
一か月たった。特に何も起きねえ。
危険な生き物はいないし食料は豊富。
果実は勝手に実るし、
魚は網もないのに向こうから飛び込んでくる。
寒くも熱くもなく、毒もない。
――パラダイス?
いや、雰囲気だけはやたらおどろおどろしい。
夜になると
「ギャオオオオ」とか
「ウワアアア」とか奇声が響くのだが
翌朝確認すると
フクロウの鳴き声と村人の寝言だった。
……ボリュームには気を使ってほしい。
そんなある晩。
「……あなた」
背筋が凍った。
振り返ると、そこに立っていたのは――
黒髪がうねうねと揺れる、不気味なほど白い肌の少女。
目は虚ろで口元は笑っているのかいないのか判別不能。
だ、だが、よく見てみたら……
よく見てみたら、めちゃくちゃかわいい。
「に、人間……?」
「そう。あなたと同じ……人間」
声は低く抑揚がない。
だが近づくたびに、ほんのり甘い香りが漂う。
「わ、わかったぞ!お前がこの世界のラスボスか!」
「違う。……あなたの隣にいるだけの存在」
クーデレか?いや時折チラリと光る視線がやばい気もする……
「ここ、怖いだろう?」
「いや、むしろ快適なんだが」
「……そう。じゃあ、ずっと一緒にいられるね」
背筋がさらに冷えた。
「ちょ、ちょっと待て。俺には元の世界に帰るという使命が――」
「帰さない」
即答。しかも笑顔。
いや、笑顔なのか?口角が上がってるだけか?
「あなたがいなくなったら、この世界……また本当に不気味になる」
「え、今も十分不気味だが」
「でも、あなたがいると……楽しい」
その瞬間、俺は気づいた。
この世界が暮らしやすいのは
全部こいつのおかげなんじゃないか?
危険な生き物がいないのも、
食料が豊富なのも、気候が快適なのも。
ぜんぶ彼女が裏で“調整”している……?
「……お前、神か?」
「違う。ただの女の子」
「じゃあ、なんでそんなことが――」
「あなたが笑ってくれるなら、なんでもする」
「お、おう!?」
クーデレじゃなくてヤンデレかもしれない。
「俺がもし他の女の子と仲良くしたら?」
「その子は……いなくなる」
「怖っ!」
だが同時に、
胸の奥が妙に温かくなってしまった。
不気味で、恐ろしくて、でもかわいくて。
俺は悟った。
――この異世界に冒険なんていらない。
俺の使命はただひとつ。
この黒髪うねうねクーデレ(ヤンデレ)少女と
奇妙で平和な日常を過ごすことだ。
「なあ」
「なに?」
「……一緒に飯食うか」
「うん。ずっと一緒に」
こうして俺の異世界生活は、
恐怖と安堵と、ちょっとした恋心に包まれて続いていく。
異世界パラダイスは不気味でかわいい 茶電子素 @unitarte
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