二十四話 タイミング次第で見え方も変わる
マナカの問いかけは僕にとって願ってもないことのはずだった。なぜなら僕はノワールさんの反対を押し切ってこの島を出て、転生者として少しでも魔王討伐に協力したいと思っていたのだから。
「あ、僕は…………」
しかしいざそれをマナカから尋ねられて僕は即答できなかった…………その言い訳はいくつも頭に思い浮かぶ。
魔王討伐に失敗しても生き延びたマナカを知って、力がなくとも何か貢献しようという僕の考えが甘かったと理解した。
何の力も持たない僕ではノワールさんの言う通り島を出ても何もできないだろうし、むしろ力のない転生者という立場は他の人の足を引っ張ることにもなりかねないと思える。
いや違う。
そんなことは最初から僕は分かっていたのだ。わかっていてそれでもいいと僕は思っていたはずなのだ。
あの少女の神からチート能力を貰うのを拒否した時から、僕は物語の主人公になるつもりはなかった。力がないならないなりに、使命を果たそうとする他の転生者たちの助けになれれば下働きだってなんだってこなすつもりだったはずなのだ。
それなのに今の僕はそんなものは自己満足に過ぎないと思い始めている。自分が満足するだけで他の転生者には何の助けにもならず、むしろその足を引っ張る可能性がある…………それならばいっそ何もするべきではないと。
ただその考えそれ自体は間違っていないとも僕は思う…………問題はそう考えるようになったのが今だということだ。
だって僕はこれまでノワールさんの反対を押し切って島の外へ出ようとしていたのに、それではいざその可能性に繋がるマナカが現れた途端に辞める理由を考えついたということになってしまう。
これでは僕が本当は島を出たくなんてないのに、島を出られない状況だからこそ出たいとわがままを言っていたように見える。それじゃあ親に構って欲しいがゆえに本当はやりたくもない無茶をしたいと叫んでいる子供のようだ…………それに気づいて僕は羞恥で死にたくなる思いに顔が熱くなる。
「生憎だけどアキ君にそんな力は、ないのよね」
そんな僕を察してかノワールさんが口を挟んだ。
「ないとはどういう意味ですか…………彼も転生者なのでしょう?」
「その彼から何の力も感じないのはあなただって、わかっているわよね?」
「…………それはその通りですが」
ノワールさんの言葉を理解しつつもマナカは納得できていないようだった。
「彼は力を抑えているだけではないのですか?」
どうやらマナカは何の力も感じない僕という転生者をそう解釈したようだった。確かに物語であれば本来の実力を隠して振舞う強者なんてキャラは珍しくない…………しかし生憎と僕は実力の隠し方なんて知らないし、そもそも隠すような力もないのだ。
「アキ君はね、神の加護を拒否したのよね」
「…………拒否?」
驚いたようにマナカが僕を見る。
「本当なの?」
「ええと…………はい」
それは事実なので僕は頷いた。
「なんでそんな拒否なんて…………」
「あなたの言う力に伴う義務を好まなかった、からかしら」
答えたのはノワールさんだった。
「だからアキ君はあなたのように神から使命に対する報酬を与えられて、いないのよね」
「…………」
きっぱりと告げるノワールさん…………それで僕はようやく彼女がマナカに対して使命に対する義務や報酬の話をしていたのかを理解した。だって神の代行者として力を与えられたノワールさんは使命の内容が違うだけで転生者と立場は同じはずなのだ。
それなのに否定的な言葉ばかりを選んでいたのは、今この場面で僕を庇うためだったのだろう。
「そんなアキ君をあなたは戦場にひっぱり、だすのかしら?」
「…………報酬を払う用意はあると言ったはずです」
「そもそも戦う力がないのを忘れて、いないかしら?」
「何の力もないはずありません!」
不意にノワールさんが叫んで僕を見る…………何というか必死の表情だった。僕に力がないはずはない、無くては困る、そんな表情。しかし一体なんで彼女がそんな表情を浮かべているのか僕にはわからない。そもそも彼女が勧誘しに来たのはノワールさんみたいだし、僕の存在はおまけのようなもののはずなのに。
「そうだ! 何の力もないのならなぜあなたは若いんですか! 元の姿のままこの世界に転生したならもっと歳を取っているはずでしょ!」
思いついたように彼女が叫ぶ。それに僕は困った表情を浮かべた。
「ええと、それは…………」
「別におかしなことでは、ないわよ?」
どう説明したものかと言葉を選ぶ僕をよそにノワールさんが答える。
「そもそも転生者は同時期に一斉に転生してくるけれど、年齢それ自体は転生者によって異なるわよね? 転生した時に小さな子供であったなら、今のアキ君のような年齢であってもおかしくはない、わ」
「…………そうなんですか?」
そうであれば見当違いの憤りだった…………そんな視線を向けられると困る。僕は別に子供の年齢で転生したわけではないのだ。
「あの、僕はですね」
「まあ、アキ君は私が不老長寿にしたの、だけれどね」
またしても僕より先にノワールさんが答えてしまう。
「なっ!?」
「でも別にそれがアキ君の力でないことには変わり、無いわよね?」
確かにそれはその通りなのだけど、それならば最初からそう説明するべきで別の例を間に挟む理由がない…………それを多分マナカは自分をおちょくるためだと受け取ったことだろう。
「…………っ!」
しかし彼女はそれに反応した感情を何とか表に出さずに抑え込んだようだった。
「なんで! 彼に! そんなものを! 与えたのですか!」
しかし抑えきれない勢いがその言葉にはあった。
「だって私はアキ君の保護者だもの」
そしてそんな彼女にノワールさんはそう答える。
「ほ、保護者?」
「必要、だわよね?」
にっこりとノワールさんは微笑む。
「なんの力も持たないアキ君じゃこの世界では長く生きられない、ものね」
それは事実なのだろうけど僕としては忸怩たる思いを抱かざるを得ない話だ。
「つまり彼が転生してからあなたがずっと保護していると」
「その通り、かしら」
それが誇るべきことであるようにノワールさんは頷く。そんな彼女をマナカはしばらくじっと見つめて、僕を見た。それに一瞬びくりとする…………彼女のそれがまるで感情のこもっていないものに見えたからだ。
「わかりました」
しかしそれも一瞬のことですぐにマナカは諦めたように息を吐く。
「とりあえず、今日は帰ります」
そしてその言葉通り、彼女はあっさりと去っていった。
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