第4話  オレのスキル・デス




 


 困惑していると、また別のパーティが提出をしに来たようだったので、足早にユウタを連れていく。


「次行きますよ!」


 ニコルは、受付へ提出する冒険者が来る度に興奮するユウタのをしながら聞いた。


「ユウタさん……、とても興奮されていたようですが、私の案内はご満足頂けましたか?」


「はい!」


 キラキラした瞳でユウタが答える。高まっている勢いで、思わずそのまま伝えてしまう。



「嬉しかったです!オレの知ってるギルドど全く同じで!!」



「え……?」


「あ……」



(やべっ、そうだった、オレは今何も知らない新人冒険者だった)


「いや、オレの想像してるギルドと、全く同じで……!」


 実物のギルドの案内に終始興奮していたユウタは、落ち着きを取り戻さないままに、ギルドの中にある地下に通される。


「ここは……?」


「ギルド保有の訓練場です。ここで加入時のスキル確認や昇格試験を行います。」


 そこにはいくつかのレーンに的や木剣、練習用と思われる打込み台などが用意されていた。


「ではここで、お持ちのスキルをお見せください」


(スキル……この世界に来たばかりのオレが使えるスキルといったら……)


 身体を低くして、徒競走のスタート時のような前傾姿勢を構える。


「俊敏!」


「おお!なるほど《俊敏》ですね、回避や接近に有効なことから戦闘では必須のスキルです。では次、お願いします」


(次っていっても、次が最後なんだけど……)


「ニコルさん……少し、離れてください……」


 ユウタは念の為にニコルを下がらせる。


「ええ……わかりました……」


 訓練場に緊張が走る。ニコルは息を飲んだ。



(一体……どんな……)



 そう言うと、とんでもなく申し訳なさそうな顔でユウタはスキルを発動する。



「ね、粘液ー」



 ブシュっと粘液が噴出される。ニコルの顔がムンクの叫びさながらわかりやすく歪んだ。



「気持ち悪っっ!!!……」



「スキル、《粘液》です」


「いや見たらわかりますけど……」


 張り詰めた空気は平静を取り戻す。


「ユウタさん。……変なことに使ってませんよね……?」


「なんですかそれ!使わないですよ!」


 怪しそうという言わんばかりに彼女は目を細める。ユウタとしても獲得したくてしたスキルではないのだ。


「あとはよろしいですか?」


 他に保有しているスキルといえばと思い返したユウタは、自分のスキルについての質問をすることにした。発動ができない不思議なスキルについて。


「《スキルテイク》……ですか……」


「発動できなくて……どんなスキルかオレにも、ニコルさん何か知りませんか?」


「聞いたことはありませんね、この仕事長いんですが……」


 ギルドの人が分からないとなると、あまり実用性のないスキルなのだろうか。ニコルも気になっているようで、調べておいてくれるそうだ。


 そうなるとやはり、先程の二つで決める他ないといことになる。


「《粘液》……はともかく、《俊敏》ですか……。《俊敏》なら主に剣士や拳闘士ですね。近距離で戦うことが多い役職ですから、持っていることは多いですよ」


(剣士か……でも、まだ実戦の経験も浅いからなぁ)


 ──────────────────────



 結局決め倦ねてしまい、役職が確定するまで、しばらくノンランクでも受けられる依頼を受注させてもらうことにした。


 今ユウタは麦わら帽子とカゴを携えて歩いている。


 依頼の目的地である山に向かいながら、ギルド加入の感動を改めて噛み締めていた。


「まさか、早速街に到着して、本物のギルドに入れるとは……クー!!」


 走ってすぐに倒れ、目覚めてギルドに行くまでの自分の足取りを思い出す。




『役職はお任せします』


『いいんですかっ?自由とはいえパーティを組む上では必須の情報ですよ?!』


『うーん……じゃあ、粘液士で……』


『んなのあるか!!!』




 このように議論の膠着の流れもあり、ニコルから依頼での気晴らしを勧められ、現在に至っている。


(そういや……ニコルさんに川で助けてくれたっていう恩人の話を聞くのを忘れてたな、ギルドに着いたら必ずお礼がしたい!)


 何かもう一つ忘れているような気もしていたが、山の麓に到着したことで、その軽い気は消え失せてしまった。



「依頼終わらせるぞー!!!」



 両手を広く突き上げ、大声で叫んだ。山道の魔物たちがサーッと散っていく。


 急ぎ依頼を完了したい理由もできた。ユウタは内容を改めて確認する。


 ユウタが入った山にしかない指定された花をできるだけ集め、その数に応じて報酬が支払われるという内容だ。


「ハイフラワーかー……」


 説明によると、高い位置にしか生えていないらしく、怪我を恐れなければ簡単に取れる薬草らしい。高い場所に生えているから"high"、ハイフラワーだそうだ。歩いていると、さっそく崖の中腹に一本咲いているのを見つける。



「あの高さなら……いけるか?……で……」


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 ギルド受付、屈強な男性がニコルの目の前に立ち塞がっていた。彼女の胸元に影ができるほどの体の大きさだ。


 隣で受付をする冒険者たちが圧倒されている。


「お嬢ちゃん、よろしく」


 そう言うと、何かの頭蓋骨をドンっと机の上に置く。ニコルがおそるおそる顔を上げる。


 ──────────────────────



「高っ……、届くか……?」


 首を上げ、眩しい日差しを片手で防ぎながら見つけた一輪の花を見つめる。目を細めながら、ユウタはもう一方の片手を翳し、例によってこう叫んだ。


「《スキル:粘液》!」


 プシュッと勢いよく目的に向かって飛んでいく。手から、粘液が。


「よしっ!……っていや、うんー……。我ながら酷い見栄えだな……」


 スキルの使い道を得たはいいものの、なんだか使い道が阻まれたような気分に陥る。


 少し歩くと、崖に群生地が見つかる。危険なだけで見つけるのは簡単ということらしい。


(またコレを何回も使のか……)


 自分のネバネバハンドを見つめる。


「望まない能力に目覚めたキャラクターの気分だ……。……ん?」


 そこで、ユウタは何かに閃く。



「そうだ……、粘性の液体が出るなら……これしかないじゃないか!!!」



 ユウタは指をスパイ⚪︎ーマンのように折り曲げ、スキルをスパイ⚪︎ーマンのように縦横無尽に発射した。



「はははは!!シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュシュ!スパイ⚪︎ーメン!」



(多ければ多いだけ喜ばれるという無制限型でこれだけあれば!いやもっと!もっとだ!カゴ一杯に──)


 ユウタはと止まらない採集に悦楽を感じ、夕方になっても依頼をこなし続けた。日が落ちるにかけて、崖に生えているハイフラワーはみるみるうちに無くなっていった。


 ──────────────────────



 ユウタが乱獲を楽しむ頃、ギルドではガタイのいい屈強な男性が受付に来ていた。


 ニコルが反応して顔を上げると、男性はニコッと笑った。


 ユウタを助けてくれた彼だ。



「お疲れ様です!ガインさん!」



 ニコルは笑顔で答え、渡された魔物の頭蓋骨を受け取る。他の受付嬢も驚いている様子はない。


 ガインと呼ばれた彼は、おそらくギルドで信頼されている人物なのだろう。


「最近調子はいかがですか?」


「いいぞー調子は!もう次の街までの旅費が貯まるくれぇだ!」


「そう、ですか……」


 ニコルの少し笑顔が小さくなる。


「どうした、オレの活躍はギルドのためになってるだろ?」


「もう、行ってしまわれるのですね」


 腕組みをしているガイン、彼の旅立ちがニコルには惜しいようだった。


「ガインさんがいらしてから1ヶ月、ギルドの依頼達成率は20パーセントも上がりました」


「そんな数字なんて気にしてねえよ、俺の趣味だ」


「中でも受注するものはギルドメンバーが手を出せない難しい依頼ばかり。街でのギルドの評価はガインさんのおかげで上がったようなものです」


 ギルド窓口の上部には、ギルドの功績を讃える褒賞がいくつも掛けられていた。


「ギルドが人気になったんなら、喜ばしいことじゃねえか!」


「それだけに悲しいです、ここのギルドにずっと居てくれたらと……」


 ニコルはまた首を落とし、悲しげな表情を浮かべる。ガインは参ったような顔をして、片手を頭にやって照れ隠しをする。


 少し笑うと彼女の肩に手を置いた。


「冒険者なんて所詮、流浪の旅人よ。世話になったな、嬢ちゃん」


 ガインの明るい笑顔にニコルも少し明るい顔つきに戻る。指で片目を擦っていつもの笑顔を作った。


「まあ、数日は準備があっから、街を発つ時は挨拶でもしに来るよ。……ああそういや、一つ聞くことがあるんだった。あっちの患者がここに来てねえか……?」


 ガインは斜め横を親指で差している。ギルド・ホスピタルのある方角だ。


「ホスピタルからですか?怪我をされたような方は見ていませんね……」


「ならいいんだが……」


 ガインがそのまま場を去ろうと振り返り、その背中にニコルが声を掛けた。


「こちらも一つ、ギルドが初めての新人の方がいらして……ユウタという方なのですが、もしギルドでの生活に慣れていないようでしたら、サポートしてあげて下さい」


 歩きながら聞いていたガインは、背中越しに片手を挙げて応える。



「わかった、だな。それじゃ、用があればまた来る──」




 続く





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異世界いきたい‼︎=ただのユーウツ⁇ 日々憂 @hai-ok123

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