第34話 料理人、告白される?
森の中に響く、咆哮クラクション。
これに合わせて自然と俺のテンションも上がってくる。
「オラオラ! どけやゴラッ!」
アクセル全開で直進しては、勢いよくハンドルを回して狼を追いかける。
馬車を中心にクルクルと回れば、自然と狼は遠ざかっていく。
「なんだあれ……」
「新種のドラゴンか!?」
突然、現れた謎の物体に狼だけではなく、剣を持った人間たちも怯えていた。
「ハルトが壊れたぞ……」
『オイラが道を間違えたからか……?』
「いや、もしかして作り置きのスパイスカレーを全部食べたからじゃないか?」
『あれはゼルフがつまみ食いしようって言ったじゃないか!』
「俺はつまみ食いって言ったぞ? 半分はお前が食ったじゃないか!」
隣から聞こえる声に俺は振り向く。
今の俺なら何でもできそうだ。
「お前ら、一度降りて走ってみるか?」
俺の言葉にゼルフと白玉が首を横に振っていた。
カレーって二日目がスパイスと具材の旨みが混ざって美味しいって聞くから、冷蔵庫に入れておいたのにそれを食べたのだろう。
意図的に残しておいたのも、食べてしまうダメ人間とダメ家鴨だな。
こいつらいつも明日の分って言っても、残さず食べるからな。
しばらく狼と追いかけっこしていると、敵わないと思ったのか狼たちも森の奥に去って行った。
「ゼルフ、周囲の警戒は任せた!」
そう伝えて、俺はすぐにキッチンカーから降りる。
「大丈夫ですか!」
ただ、怯えている状態で出ていけば、さらに警戒は強くなるだけだった。
俺に剣が向けられる。
「何者だ!」
「あのドラゴンはなんだ!」
見たこともない大きな物体が現れたら、さすがに驚くのも仕方ない。
俺もネフィル山で出てきた魔物には相当驚いたからな。
「あれはドラゴンではなく、魔導具です」
正確にいえば魔導具でもなく、ただのキッチンカーなんだけどな。
それにしてもクラクションの音が変わっているのは、元からなんだろうか。
キッチンカーを譲ってもらった時から、今までクラクションを鳴らしたことがない。
初めからクラクションが改造されている可能性も捨てられないからな。
「何だと!」
「そんな魔導具があるのか!」
「それなら危なくないな」
それで警戒を解くのもどうかと思うが、ひとまず命が助かったのなら問題はない。
『ハルト、大丈夫だったか?』
キッチンカーから白玉が降りてくると、男たちは一斉に頭を下げていた。
白玉が俺の隣に来ると、胸を張って羽を広げた。
『どうだ?』
ドヤ顔を向けられるが、俺から見たら羽を広げたコールダックにしか見えないからな。
実際の聖鳥はそれだけ讃えられる存在なんだろう。
『お前たち、こんなところでどうしたんだ?』
「はっ、フロランシェに帰る途中でフォレストウルフに襲われました!」
どうやらこの人たちも町に戻ろうとしているらしい。
ただ、馬車は無事だが馬の姿が見当たらない。
「馬はどこに……?」
「フォレストウルフから逃れるために、囮として使いましたが……」
「あー、囮よりもこっちに興味を示したってわけですね」
馬一体よりも人間の方が獲物として認識されたのだろう。
この人たちはここから町まで帰れるのだろうか。
さすがに追加で三人は座れないからな……。
「せめてショート様だけ一緒に連れて行ってもらえないでしょうか?」
「ショート様……?」
三人の中の一人がショート様と呼ばれる人だろうか?
そんなことを思っていると、馬車の扉が開き、少女が降りてきた。
「私がショートよ!」
赤色の髪でツインテールをしている。
名前がショートだから、てっきりショートカットかと思ったが、どちらかといえばショートケーキの方だろう。
服も白いドレスを着ているしね。
「そうですか。では、失礼します」
甘やかされて育っていそうな少女に俺はすぐに頭を下げて立ち去る。
関わるのもめんどくさそうだしな。
「ちょ……なによ! 私を置いて魔物に食べられろって言うの……」
どこか泣きそうな声で叫ぶ少女。
せっかくフォレストウルフから助けてあげたのに、このままだとまた集まってきそうだな。
それに俺は食べられろってまでは言っていない。
「きっと、私が甘くて美味しいのが罪なんだわ……。だって、こんなに可愛いんですもの」
やっぱり関わらない方が良いだろう。
白玉もそう思ったのか、俺の後ろを付いてくる。
運転席のドアを開けようとしたら、突然首元がひんやりとする。
首元には剣が当てられていた。
「恩人を脅すようなマネをしてすみません。せめてショート様だけでも――」
「お前、一体誰に剣を向けてるんだ? 俺のハルトだぞ」
どこからか声が聞こえると、隣にゼルフがいた。
中々キッチンカーから降りてこないと思っていたけど、ちゃんと警戒はしていたんだな。
ゼルフはそのまま男を掴むと、後ろに勢いよく放り投げる。
「はぁー」
俺はため息をつく。
ただ、それだと変な誤解を招きそうな気がする。
〝俺のハルト〟というよりは〝俺の料理人〟って方がしっくりするからな。
「頼むならちゃんとした態度があるだろ」
珍しくゼルフが怒っているような気がする。
やはりそれだけ俺がいなくなるのが……いや、俺の料理が食べれなくなるのが嫌なんだろう。
「例えばどんな感じよ!」
きっと甘やかされて育っているから、彼女は頼み方一つも知らないようだ。
さっきも俺に察して欲しいような言い方をしていたからな。
「こうやってやるんだ……」
ゼルフは俺の方を見ると、勢いよく頭を下げる。
「美味しい飯を使ってくれ!」
その言葉につい俺も笑ってしまう。
たまに俺がご飯を作るのが遅くなると、ゼルフに言われていたからな。
これが女性なら俺も嬉しかったけど、ゼルフは無愛想で俺よりも大きな男だ。
それにこれだと少女に勘違いさせるような気がする。
「わかったわ!」
そう返事して、彼女も近づいて頭を下げた。
「美味しい飯を作ってくれ!」
本当に彼女もゼルフのマネをしていた。
やっぱり勘違いしていたようだ。
「はぁー、わかった」
ただ、せっかく頭を下げてくれたなら無碍にはしない方が良いだろう。
俺は渋々、少女をキッチンカーに乗せることにした。
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