第32話 部外者
蔵人が生徒会に顔を出したのは、翌日のことだった。真っ先に情報を共有すべきだと思っていたが、起き上がれるようになったとはいえ、まだ立ち上がるのもやっとの状態だった。
楓「もう、大丈夫ですの?」
蔵人「なんとかな」
他愛のない会話から入り、蔵人が抱えていた疑問を楓に伝えようとしたその時、背後から声がかかった。
オルフェリア「ふむ、もう大丈夫そうだな」
振り返った蔵人は、これでもかというほど露骨に嫌な顔をした。
オルフェリア「なんだい、つれないね」
蔵人「あのクソ野郎も目を覚ましたみたいだし、そっちにいけよ」
オルフェリアは小さく頷いた。だが次の瞬間、さらりと告げる。
オルフェリア「そちらはエルンストにでも任せようか。私は君と話がしたいね、年長者殿?」
蔵人「俺は話すことなんてないが?」
オルフェリア「そうかい」
しばらく沈黙する。しかし一向に場を離れようとしないオルフェリアに、蔵人は苛立ちを募らせる。
蔵人「どっかいけよ!!」
オルフェリア「別にいいじゃないか。減るものでもなし」
蔵人「部外者には聞かせたくないね」
オルフェリア「君も部外者、なんだろう?」
蔵人「――っ!」
その一言に、蔵人は息を呑んだ。言い返そうとしても言葉が出てこない。何より、ここまで情報を集めていること自体に恐怖を覚えた。
楓「もう部外者ではありませんわ! 彼が居なければ、私たちもどうなっていたことか」
楓が慌てて場を取りなそうとする。だが、生徒会の面々は同調しない。
オルフェリア「ふふ、だからこそ、君には理解してほしい。我々と君は、同じだよ」
蔵人は否定の言葉を見つけられなかった。――自分もまた、この生徒たちを利用しようとしているだけの部外者なのかもしれない。
アレックス「そうだよ、彼は部外者だ」
レイジ「まあ、それはそうだけど……ね」
その言葉に、オルフェリアは柔らかく微笑んだ。
オルフェリア「安心していい。君たちは守られるべき存在だ。私が保証しよう。それは、我らが領都ブランダウに来れば、飢えも恐怖もない。もちろん年長者殿も同じく、ね」
蔵人はもうなにも言わない。
しかし、毅然とした、いや激昂したように楓は反論した。
楓「オルフェリアさん、それにアレックスも!! それはあまりにも失礼な物言いですわ!! 彼は今日まで命をとして学園に、私達に貢献してくれました。それを、それを!!!!」
オルフェリアは肩をすくめ、あっさりと頭を下げた。
オルフェリア「失礼した。少しばかり言葉足らずだった、かな? 私も彼と接点が欲しかったから、このような物言いをしてしまっただけなんだ! 許してほしい」
オルフェリアは軽やかな足取りでその場を後にした。
――残された空気は、どこか重苦しい。
楓「それで、話したいことと言うのは――」
楓が問いかける。だが、蔵人は口を開きかけて、すぐに閉じた。
楓「あっ……」
蔵人は足取りもおぼつかないまま、静かにその場を後にした。
背中に残るのは、楓の小さな吐息と、言いかけて飲み込まれた言葉だけだった。
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