第27話 俺達は、この先どうなるんだ――

 生徒会室に、オルフェリア以下四人の騎士たちを招き入れた。もう残り少ない紅茶や菓子を並べ、ささやかなもてなしを整える。

 廊下には狼牙たちを待機させていた。甲冑をまとった四人の騎士を相手にするには心許ないが、念のための備えだった。

 その会談の場は生徒会、特に生徒会長紫宮楓が主導した。蔵人がそうさせたのだった。

オルフェリア「事情はわかった。しかし、今すぐに500人も受け入れることなど、私の一存では難しいものがあってだな」

蔵人(……随分と飲み込みが早いな。異世界だぞ!? そんなおとぎ話を、なんで信じるんだ?)

 疑念は拭えないまま、蔵人は口を開いた。

蔵人「おいおい、やっぱり俺達はここらか出てかなくちゃならねーってのかよ」

オルフェリア「そうだ。諸君らには、この場所から退去して貰わないと困る」

蔵人「困る、ねえ……俺等も困るんだが」

オルフェリア「何を困るというんだ? 新たな家を、食事を提供するというのに?」

蔵人「保証もないってのに、信用できるわけないだろ」

オルフェリア「そこは、信じてもらうしかないな」

蔵人「ざけんなよ、ついさっき殺そうとしてきた人間を、どうして信用できるってんだ?」

オルフェリア「ふっ、まあ当然か」

楓「と、とりあえず、今夜はこちらに泊まっていただいたほうが、よろしいのではないでしょうか」

オルフェリア「それは! ありがたい!」

 蔵人はわざとらしく感謝を述べるオルフェリアに対して、不快感を隠そうともしなかった。

蔵人「だったら武器おいてけよ」

ディートリヒ「なっ……貴族から武器を取り上げるつもりか! 農民風情が! 分をわきまえろ!」

蔵人「ふざけんな。特にお前みたいな差別主義者に剣を持たせておけるかよ。不安で小便だっていけやしねえ」

 オルフェリアは両手を上げると、机の上に武器をおいた。

ディートリヒ「で、殿下!?」

蔵人(殿下ぁ?)

オルフェリア「この男の言う通りではないが、多勢に無勢ではあるのだ。ここは、彼に従うしかないだろう?」

ディートリヒ「くっ、覚えておれよ農民!!」

 ディートリヒに続いて他の四人も武器を机においた。

 大人しく従うオルフェリアを、蔵人はますます疑った。


 オルフェリアたちに個室を与え、案内を済ませた。

 古びた旧校舎の一室に通された騎士たちは、甲冑を脱ぎながら互いに視線を交わす。

ヴィルヘルム「……殿下、本当に武器を預けてよろしかったのですか」

 一番恰幅の良い青年である、ヴィルヘルム・フォン・クロイツベルクが質問した。

オルフェリア「仕方あるまい。ここで無用な流血を流す必要もない」

カタリーナ「でも……あの人たち、本当に異世界から来たのでしょうか。そんなことって……」

 彼女はオルフェリアの侍女、名をカタリーナ・フォン・リーエンフェルトといった。彼女は本来甲冑を纏う必要などないのだが、オルフェリアに影響されてのことだった。

エルンスト「この城だけでも、真実味はあると思うけどね。まあ、信じる信じないはともかく、こんなところに五百人も抱えているのは事実だ。辺境伯にとっては頭痛の種だろうな」

 どこかほくそ笑むように笑ったこの男は、エルンスト・フォン・ヴァルデック。小領主の次男坊で、オルフェリアの親衛隊として抜擢された知恵者だった。

ディートリヒ「ふん、下民の群れに過ぎん。いずれ報いを受けさせてやる」

 その言葉に、オルフェリアは小さく首を振った。

オルフェリア「……軽んじるな。あの“年長者”とやら、虚勢にしては妙に肝が据わっていた。戦争のないという平和な世界から来たにしては、な」

ヴィルヘルム「殿下……」


 ――その頃、生徒会室では。

楓「……本当に泊めてしまってよかったのでしょうか」

蔵人「楓が言ったことじゃあねーかよ」

楓「じゃあ、どうしろと!?」

蔵人「寝首をかく!」

楓「貴方は! なんでそう荒っぽいの!!」

レイジ「彼女らは相当身分の高い人たちのようだし、そんなことしたら皆殺しにされるんじゃないかい?」

 レイジの言葉に、蔵人は押し黙った。

蔵人(そうだ、特にあのオルフェリアとか言う女。殿下って呼ばれていた。公爵の娘だって殿下なんて呼ばれないのに、なんでだ?)

狼牙「でもよ、あいつらの目つき、完全に俺らを見下してたぜ。ムカつくぜ。ムカつくけど、油断できねえよ」

蔵人「わかってる。だからこそ、今夜は目を光らせておくんだ。ナメられたら終いだ」

 紅茶の香りがまだ残る生徒会室に、重苦しい沈黙が落ちた。互いに武器を置いたとはいえ、信頼には程遠い。むしろ、武器を渡したところで、どうとでもなると言うことなのかも知れない。それだけの余裕が、奴らにはある。

 窓辺には二ツ月から漏れた光が怪しく差し込んできた。

蔵人「俺達は、この先どうなるんだ――」

 言い知れぬ不安が蔵人を、この場にいる全員を襲った。


 

 

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