第25話 銀の嵐

蔵人「余計なこと言ったかなあ……」

 またも図書室で一人悲嘆に暮れていた。全く成長しない男である。

蔵人「なんで俺は、こう余計なことを言って場をかき乱すんだ……」

 深いため息を、もう何度もついている。

弦音「まーた一人でぶつぶつと、考えてもしょうがないんだから、もう考えなくていいんじゃない?」

蔵人「うっさい! 考えないですんだら、こんな人生は送っていない!!」

 蔵人はまた頭を抱えた。声を荒げたあと、また頭を抱え込む。

弦音「もう! 陰キャのくせに出しゃばりなんだから……自分のことだけ考えていればいいのに」

蔵人「出しゃばる前の俺に言ってくれ……」

弦音「むり!」

蔵人「ううぅ……」

弦音「しっかし、よく赤ちゃんなんて、そんなことに頭回ったよね」

 ドキッ、っと蔵人の心臓が跳ね上がった。

弦音「もしかして、オタクくんってさ……」

蔵人「っ!?」

弦音「ど――」

蔵人「それを口にしたら、戦争だろうが……っ!!」

弦音「うわぁ……本物の魔法使いじゃん」

蔵人「わァ…あ…」

弦音「泣いちゃった!」

 弦音によしよしされながら、蔵人は泣いていた。

楓「……うわぁ」

 あまりにもあんまりな光景を見た楓は、ドン引きした。

蔵人「笑いたきゃ、笑えよ」

 楓は笑わない。笑えなかった。

 しばらく地獄のような時間が続いたが、結局、耐えられなくなったのは蔵人の方だった。

蔵人「なんの用だよ」

楓「その……会議のことで、随分と凹んでいるように見えたから」

蔵人「そう見えたのか? どちらかといえば、受け入れられなくてイライラしてると思われたかと思っていたよ」

楓「貴方には感謝しています。いつも、損な役割を引き受けてもらって」

 蔵人は照れくさくなって、頭をかいた。

蔵人「……ありがとう。何ていうか、本当に」

 蔵人は、自分の心の弱さというものを理解されない人生だったと自認していた。そのクセ理解されたくない弱さ、つまり欠点の方はこれでもかというほど指摘されるので、人付き合いを毛嫌いしていた。詰まるところ説教をするのは好きなのに、されるのは嫌いなのだ。そんな卑怯なところも自己嫌悪の対象だったが、初めて、そう初めて、心の傷を理解されたような気がした。

 こういった気遣いができるからこそ、この生徒会長は皆から慕われているのかもしてないと、蔵人は思った。たった一言の、その優しさが人を救うこともあるのかもしれない。

 しかし、現実は、目を背けようとも変わらない。

 蔵人はそれを指摘せざるを得ない。しなければいいものを、そういう性格なのだ。

蔵人「それでも、それでも俺はあの甘い対応は良くないと思うぞ。罰とは、甘ければ意味を成さないんだ」

楓「わかっていますわ。私も女性ですから」

蔵人「なら――」

楓「もっとゆっくりと、変えていけばいいのよ。あまりにも急に変えてしまったら、みんなびっくりしますわ!」

 それも一理あった。人間はボタン一つで切り替えられるほど単純なものではないのだ。

蔵人「慎重がすぎるんじゃないか!」

 そう言いながらも、蔵人の顔は明るく笑っていた。

楓「ふふっ、それが私ですから!」

 願わくば、このままゆっくりとことが過ぎていってほしいと、蔵人は思った。

 しかし、現実は無常にも、嵐を呼び寄せるものなのだ。

「煙を目印に、森を進んできたが、よもやこんな城が立てられているとは……」

 甲冑に身を包んだ女は、そびえ立つ学園を見上げて低く呟いた。背後には、鋭い眼差しをした四人の配下が控えている。

 その女の名は――オルフェリア。オルフェリア・ド・ナミュールといった。

 冷ややかな風に揺れる銀の髪とともに、嵐は訪れた。

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