第22話 新たなる火種は炉の中に
数日間、蔵人は弦音から差し入れされた歴史本で退屈を凌いでいた。そこには刀剣などを作る鍛冶の項目もあった。
蔵人「刀鍛冶、憧れるぜ」
――影響を受けやすい性格だった。
まずは炉の建設を考えたが、粘土がない。
陰キャの軌条キザムに相談すると「崖や川に多い」と教えられ、早速探しに行った。幸運にも一時間もかからず粘土の採取場を見つけることができ、猫車で学園に運び込む。
校庭の空き地で粘土をブロック状にして乾かし、レンガを作り始めた。
動画配信サイトで見たサバイバル動画を必死に思い出しながら、木の枝を割いて長方形の金型を作る。
作業は順調そのものだった。もうブロックが三桁にも登ろうとした時、生徒会長紫宮楓は、またも変なことを始めた蔵人に話しかけた。意気揚々と鍛冶場を作ること、そのためのレンガを制作中であることを告げた。
楓「レンガならありますわよ?」
蔵人は開いた口が塞がらなかった。確かに学校なのだから、レンガくらいあって当然だと今さら気づく。
全てが徒労に終わったような気がしたが、ここまで作ってしまった以上、途中でやめるのも癪だったので残りの粘土も結局すべてブロックにしてしまった。粘土を全て使い終わった後、なにか陶器の皿などを作ればよかったと、後悔した。しかしせっかく作ったブロックを崩すのも気が引けた。
また、炉を作るにしても、鉄を熱するための送風機、ふいごのようなものも作らないといけなかった。課題は山積みだったが、なにかを試すことは楽しかった。
そんな蔵人のクラフト行為を、陰キャたちは手伝ってくれた。
率先して粘土を採取したり、木工なども行った。その木材などは不良たちが伐採を手伝ってくれた。
不良たちは不良たちで、武器などの制作に興味を示した。いがみ合っていたふたつの派閥は、蔵人が橋渡し役となって良好な関係を築いていく。
特に陰キャグループで一番手先の器用な平賀からくりと、不良グループの無口な竜胆仁は、互いにアイディアを出し合いながら制作を進め、次第に親密な関係を築いていった。
二人を中心に、手先の器用な者たちは自然と“制作サークル”のような集団を形成していく。……気づけば、蔵人はただの粘土運び係、蚊帳の外だった。
蔵人「こんなはずじゃないのにぃ!」
――しかし学園では新たな火種が芽吹いていた。
蔵人がぼやいていたことと同時刻、生徒会室に現れたのは、元野球部部長、川治政宗だった。
政宗「生徒たちの、ゆすり行為が深刻になっています」
楓「それは、どこの誰ですの? 黒瀬さん? 球磨川さん?」
政宗「いえ……むしろ彼らはそれらを止めようとしています」
アレックス「なんだって!? とても信じられない……」
レイジ「それで、いったい誰がそんなことを?」
政宗「確認できているだけで、一年生十人、二年生十五人、三年生十八人」
楓「……そんなに」
政宗「しかも全員、普通の生徒です。不良ではありません」
生徒会のメンバーは、ようやくことの重大性を理解する。
アレックス「そ、それは、もしかしたら、いや、もしかして新しい不良グループが生まれたと、そういうだけのことではないのかい?」
政宗「そんなことはどうでも良いことではないですか? 問題なのは、普通の生徒ですら、不良行為を行っていることでしょう」
アレックス「う、うむ……」
政宗「こちらも深刻ですが、水くみや畑の当番が、賭けの対象になっています。負けた者が当番を押しつけられる。しかも班長たちが率先して、おこなっているようです」
アレックス「なっ!?」
政宗「もう相当数の生徒が被害にあっています。皮肉なことですが、今最も秩序が保たれているのは、愛宕さんのグループですよ」
生徒会のメンバーは沈黙する。
楓「なにか、なにか手を打たなければ……」
そんな重苦しい空気の中で、蔵人は生徒会の戸を開ける。
蔵人「か、かえでも~ん!! 聞いてくれよ!! みんな俺を除け者にして、なんか工作始めちゃってさあああ!! 俺が鍛冶場を作ろうって提案したのに!! 提案者俺なのに!!」
しん、と静まり返った生徒会室の空気に耐えられなくなった蔵人は、質問した。
蔵人「どしたん? 話聞こか?」
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