第2話 はじめての友達
学校の『女神』と謳われている彼女、一ノ瀬綾香。
『女神』という表現は彼女の持つ容姿と人柄から来ている。
神々しすぎる白髪。
風が吹くごとにきらきらと太陽光が反射して、そのストレートヘアーがさらりと靡く。
それに加えて、透けるような乳白色の肌に、堀の深く、すらっとした鼻筋。
そして大きな瞳に小顔。
極めつけに謙虚で控えめな性格をしている。
そんな容姿をする彼女につけられたあだ名は、スクールカースト最上位を突破した存在。
一般人とは次元の違う世界の住人。
つまり、神。
『女神』である。
しかし、そんな彼女がスクールカースト最底辺と対照的な俺に何の用だろうか。
「え、えっと、どうした?」
さすがに『女神』なんて呼ばれている人物から声をかけられると思っていなかったため、少しどもってしまう。
まさか私の分も買ってとかじゃないよな…?
そしたら『堕女神』だ。
︎︎堕ちるところまで堕ちてしまえ。
そんな俺の考えとは裏腹に、一ノ瀬さんはふわっと優しく微笑んだ。
「私と友達になりませんか?」
どんな用事かと思えばまさかの、友達になろうとのお誘い。
「えっと?今まで俺たち接点なかったよね?」
もちろん俺は困惑した。
こちとら入学当初からの生粋ボッチだぞ。
この学校にとんでも可愛い幼馴染がいるわけでもない、ほんとにただのボッチだ。
話しかけられる心当たりなんてないんだが…。
「うん。接点はないけど私は深瀬くんと話してみたかったんです」
「それはまたどうして?俺と関わってもいいことなんかないと思うんだけど」
金城の標的がもしかしたら俺から一ノ瀬さんに変わってしまうかもしれないからな。
「ただ私が深瀬君に興味があるだけです」
一ノ瀬さんは率直に答えた。
その言葉にドキッとしてしまう。
さすがに美少女に「私あなたに興味あるの」なんて上目遣いで(身長差でそう見えるだけ)言われたら心拍数も上がってしまうのも当然だ。
「なるほど…、でも俺と友達になったら金城の標的になるかもしれないぞ?」
「私は別に構いませんよ?私を標的にしたところで金城君が周りから非難されるだけですから」
「まあ確かに…」
よくよく考えるとそうだ。
陰キャボッチの俺を標的にしたところで金城には何のダメージもない。
しかし、一ノ瀬さんが相手なら別だ。
校内でも人気の高い彼女を敵に回すなんてほとんど生徒全員、いや教師も含めて敵に回すのに等しいもんな。
「じゃあ、友達…なるか」
「友達…なりましょう」
「手始めに連絡先でも交換しとく?」
そう聞くと一ノ瀬さんはこくんと頷いた。
こんなちょっとした仕草でさえ可愛い。
一ノ瀬さんに見惚れつつ、差し出されたコードを読み取ると、そこにはかわいらしい猫のアイコンの下に『あやか』と書かれたアカウントが表示される。
家の猫だったりするのだろうか。
︎︎ペットは飼い主に似るというが、その通りと言わんばかりに愛くるしい。
「なんかスタンプでも送っとくね」
「うん、ありがとうございます深瀬君」
ぶるっと一ノ瀬さんのスマホが振動し、彼女は画面に目を落とすとコロコロと笑った。
「『へい友達』って…、確かに友達になりましたけどさすがに一通目にこれが送られてくるとは予想してませんでした」
そう言うと一ノ瀬さんはまたコロコロと笑った。
俺が送ったのはペンギンが『へい友達』と書かれた看板をもっているスタンプ。
今まで使われることなくホコリを被ってきたものだったが、一ノ瀬さんにウケてよかった。
と、ここでジワリ汗をかきだした左手のイチゴミルクに、俺は本来の目的を思い出さされる。
「あ、ごめん俺早くいかないといけないんだ」
「あ、…うん。じゃあまた教室でね」
見るからにテンションの下がった一ノ瀬さんに手を振りつつ、俺は教室へと急いだ。
こうして俺は高校初の友達(女神)とその連絡先を手に入れたのだった。
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