第27話運命共同体

ニチレンの隠れ家は10畳程度の小さな小屋で、中央に机、壁際にソファーというこじんまりした場所だった。

ソファーにハルを寝かせる。

「ハル様、大丈夫でしょうか?」

「傷も処置はしたし気を失ってるだけみたい。信じて起きるのを待とう」

「はい…」


私、アーサー、ニチレンが机を囲む。

「さて、話し合いたいことはいっぱいあるんだけど、まずは状況の整理からだね」

「城を落とすんですね!私、ワクワクしてきました!」

ニチレンが物騒なことを言い出す。

そんな国家反逆罪になることを嬉々として提案されても…。

というか『状況』と『整理』って言葉を辞書で調べてくれないかなぁ。

「ニチレン様、私たちは和解という目的で来たのです。人族に手をあげることはできません…」

アーサーちゃんありがとう、もっと言ってあげてほしいね。

「でももうそれ以外できることはありませんよ?いずれここも見つかりますし、王との対面は絶対にしなければならないです」

「どういうこと?」

「魔王さんたちは昨日王様と謁見しましたよね?実はそこで簡単な契約魔法が発動しています」

「え!?」

同意してないのに契約とはこれいかに。

「文書に同封されていた許可証、持ってますよね。あれが契約の証です。王様と会って今日会合をすると同意した時点で逃げられません」

許可証を取り出すと、少し光っていて『会合の同意 契約完了』と書かれていた。

「ちなみに破るとどうなるの?」

「破った方が衰弱死します」

「衰弱死!?」

怖!なんてもの渡してくるんだ!

「ただの保険ですよ。簡易契約なので簡単な内容しか契約できません。もし魔王さんがよからぬことを考えていたらマズいので行ったことです」


「あの、いいですか?」

アーサーが手をあげる。

「それでもこの契約、いくらでも悪用できると思うのですが…」

「ご心配なく。簡易ですし抜け道はいくらでもあります。今回のケースは難しいですが…」

契約魔法っていうのもいろいろありそうだね。ちょっと気になる。

「それともう一点あります。もしそれが本当なら自ら契約を破ろうとした王様が衰弱死するのでは?なぜこのようなことを?」

た、確かに!どう転んでも共倒れになりそうなのに。

「そう、それが王様が操られているんじゃないかという根拠です!」

机に両手をバンとのせる。

「ですので!王様を正気に戻すため、城を落としましょう!前代未聞ですよこれは!」

やっとつながったよ、それでもそのテンションはおかしいけど…。


まぁとにかく、これはもう本当に逃げられない感じか。


「でも、いつ操られたんだろう?あの王様、精神力強そうだから跳ね返しそうな気がするんだけど」

その時、

「う…」

ハルが目を覚ました。

「ハルさん!」「ハル様!」

「ここは…」

あたりを見渡す。

「無理しないで、ここはニチレンさんの隠れ家。安全な場所だからって連れてきてくれたの」

「ニチレン殿、ありがとうございます」

頭を下げる。

「いいえ、私が魔王さんを連れてきたわけですし当然です」

「あ、そうです!魔王様、お伝えしたいことが」

思い出したかのように私の方へ向きなおした。

「どうしたの?」

「襲撃が起こる少し前のことです。窓から光を見たのです」

「光?」

「ええ、何かと思っていたら王が我々を攻撃してきて。もしかすると、あれはケンタウロスの件と同じなのではと」

「えっ!?」

つい10日ほど前のことだ。忘れるはずがない。

突然の凶暴化、光と考えれば確かに共通点は多いけど。

「どういうことですか?」

「あ…」

どうしよう、ニチレンさんには話しておいた方がいいのだろうか。

「魔王様、話すべきかと思います」

アーサーが助言をする。

「…確かにそうだね。助けてもらったし、もう私たちだけの問題じゃない」


そうしてニチレンにケンタウロスの事件を教えた。


「なるほど、そんなことが」

「でも原因が全くわからなくて…」

正直太刀打ちも全くできなかったしね。

「じゃあ方向性は決まりましたね!」

「…え?」

「『え?』じゃないですよ。解決法わかってるじゃないですか」

3人が首をかしげる。

「あの…どういうことでしょう?」

アーサーが尋ねる。

「封印したら元に戻ったんですよね、じゃあ封印しちゃいましょう!」

「王様を!?倫理的にどう…。いや、というよりできるの!?」

「できますよ!それにこの状況で倫理と言っていたら逆に国が滅びます」

「む…」

反論ができない。

「ただ、1つ問題が。皆さんには30秒ほど王様を足止めしてもらう必要があります」

「足止め?」

「私の封印はその場に30秒とどまっているものに限定されます」

「拘束は?」

「できますが同時の発動ができないので」

なるほど、そこで私たちの出番というわけね。

でもあの王様相手に足止めってできるのかな…?

自称だけど戦士のワルクさんよりも強いって言ってるし、正直30秒でも自信ないな。


そう思っていたらアーサーとハルが目を合わせて笑みを浮かべた。

「やりましょう!」

「ええ!」

「アーサーちゃん?ハルさん?」

アーサーがニチレンの手を取る。

「ニチレン様!任せてください」

「やる気ですね」

「ええ!だって魔王様は『足止めの魔王様』と言われるほどなんです。30秒程度、どうってことないです!」

「アーサーの言う通りです。私たちが30秒、足止めをしてみせます!」

「えぇ…?」

今までの足止めって私じゃなくてみんなが頑張ってくれたおかげなんだけどなぁ…。

「魔王さん、ほんとですか!?」

ニチレンが期待するような目でこちらを見てくる。


はぁ…しょうがない、他に方法もないしね。

正直フルパワーでも10秒が限界だと思う。

でもみんながここまでやる気になってる。

お膳立てもしてくれている。

今しっかりと腹をくくろう。


パン!と自分の頬を両手で叩いた。

「魔王様…?」

アーサーとハルが心配そうにこちらを見る。

「…ごめん、気合を入れただけ」

よし、もう大丈夫。

「わかった。私たちがどうにかして足止めをしてみせる」

「魔王さん!ありがとうございます!」


「じゃあ…」

と、ニチレンが人差し指をこちらの口に当ててきた。

そしてその手を全員の真ん中に置く。

それに合わせ、私たち3人も手を重ねた。

「じゃあみんな、ここからは運命共同体だよ」

目を合わせる。

「城を落とそう!」

「「「おーーーー!!!」」」


足止めの魔王様、出動だね!



おまけ

「そういえば封印っていう解決法がなかったらどう対処するつもりだったの?」

「直接拘束、気絶させて力技で正気を取り戻してもらうつもりでした」

「うわ…」

脳筋勇者パーティの一員だったことを再認識した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る