第26話精神の削れる移動
「ニチレンさん!?」
突然現れたニチレンさんにとんでもないリアクションをしてしまった。
隣を見るとアーサーちゃんも腰が抜けてしまったようで口をパクパクさせている。
「いやぁ、探しましたよ」
「ど、どうやって見つけたの?というかいつからそこに?」
立ち上がりながら説明を求める。
「私が本気を出せば魔王さんの位置なんて簡単に探知できますよ」
この人ストーカ…探偵に向いてそう。
そんなことを思いながらアーサーに手を差し出して立つのを手伝う。
あ、そうだ、逃がしてくれたことお礼言わなきゃ。
「ニチレンさん、お城では逃がしてくれてありが…」
「ふふっ!魔王さん、『ひょえー』って言ってましたね笑」
ニチレンが笑いをこらえながら言ってくる。
「に…ぐ…くぅ…」
感謝してるのにお礼を言いたくなくなったのは初めてだよ。
赤面しながら手をニギニギさせて行き場のない感情を発散させる。
「それで、なんでしたっけ?何か言いかけてましたよね」
ふぅ、落ち着け、大丈夫。
この人は悪気があったわけじゃないんだ。
「…し、城では、逃がしてくれて…ありがとう…」
口の端をひくひくさせながらなんとか笑顔を作りお礼を言う。
「とんでもないです!あれは明らかに王様がおかしかったですから」
こちらの心情など一切伝わってないようだ。
「それより、早くここから移動しましょう!」
アーサーがしびれを切らして提案する。
「あぁ、そうでした。こっちへ!」
ニチレンを先頭にさっき隠れようとした植え込みへ移動した。
「それで、ニチレンさんはこっち側でよかったの?王様と敵対することになっちゃいそうだけど」
「もちろんです。王様はあんな行動に出る人じゃありません。成り代わっているか操られているかどちらかだと思います」
ニチレンが堂々と宣言した。
「でも、王様に敵対ってことは国に敵対ということに…」
「しっ!待ってください」
見ると騎士団の2人組が周りを警戒しながらこちらへ向かってきた。
「もうすぐ朝か」
「王城の魔法使いがそろそろ起きるからすぐに見つかるだろ」
「だな、今は軽く見て回るくらいでいいだろ」
そう言いながら通り過ぎて行った。
「…まずは私の隠れ家へ向かいましょう。魔法使いさんが作ってくれた探知妨害魔道具があるのでしばらくは見つからないかと」
ファウストさんそんなこともやってたのか。
「そんなものが…お願い、連れて行って」
「ただ、あの場所へ行くのは少し問題もありますが…」
問題?なんだろう?
そうして隠れながら移動していく。
空も明るくなってきた。
「あれです」
衛兵が立っており、王都の中で検問をやっているようだった。
「待ってくださいニチレン様。魔王様とハル様が確実に止められます」
アーサーちゃんの言う通り、これは無理かも。
ハルさんもまだ起きないしフードで隠すと逆に怪しまれる。
「迂回はできないの?」
「できません、無理に突破してもその時点で探知されます」
む、これは厳しいのでは…。
「安心してください、今度こそこれの出番です!」
そうしてガチャガチャと何かを出してきた。
「えぇ…?これ本気で言ってるの?」
「もちろんです!今度こそ信用してください!絶対大丈夫ですから!」
どこからその自信が出てくるのだろう。
「絶対捕まる…」
そんなことをブツブツと言いながらそれを付け、検問へと向かった。
「よし通れ、次!なん…。は?」
パーティグッズを付けた魔族とゆかいな仲間たちがいた。
「魔族か?それと…ハーピィ?」
「…」
目をそらす。
「私の連れです!通っていいですよね!」
「お前、ニチレン…」
じっとこちらを覗くように見てくる。
やばい、これほんとにダメかも!
ぎゅっと目を瞑り断罪の時を待つ。
「…通れ」
え!?通すの!?
「え!?通すの!?」
思ってることをそのまま言ってしまった。
「ありがとうございます!」
ニチレンは平常運転だ。
「いやあの、待ってください!自分で言うのもなんですが、私たち怪しすぎると思うんですよ!大丈夫ですか!?不審者ですよ?私たち!」
「お前たちは通りたいのか通りたくないのかどっちなんだ…?」
いたたまれない顔をされる。
え、これ私がおかしいのか…?
「通りたいですよ!?通りたいですけど!違うじゃないですか!」
ヒートアップが止まらない。
「違うって、何が?」
「だからぁ!こんなパーティグッズつけてる人たちがまともなはずないじゃないですかって!」
「まともじゃないのか?」
「まともですよ!!」
自分で言ってて訳が分からなくなってきた。
「お前たち、ニチレンの連れだろ?またなんかやらかしたらしいがニチレンだしな」
「(声にならない声)!!」
ニチレンを見て叫ぼうとするが言葉が出てこない。
「こいつはバカだが信用はしてるからな。まさか魔族を連れてくるとは思わなかったが」
「ぐ…くぬぬ…!!」
「あの、もう行きましょう、魔王様」
たまらなくなったアーサーが声をかける。
「いやでも!…う…そうだね、ごめん」
爆発した感情をどうにか押さえつける。
「そうですよ、怒っても何にもなりませんよ」
誰のせいだと思ってるんだ!
精神力はかなり削れたが無事ニチレンの隠れ家へと移動することができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます