第2話 迷宮ダンジョン
考えることがたくさんありすぎる。
私が直々に出向きたいけどゴブリンさんと殺された人の復活と集落の復興作業もあるし…。
勇者に出向いて失敗して復活が不可能になりましたなんて笑いごとにもならない。
「いきなりごめん、アーサーちゃん!こっちに来てくれる?」
仲間内で使える念話で呼び出しをする。
しばらくすると金髪ショートの少女が尋ねてきた。
「魔王様、呼びましたか?」
彼女はアーサー、私が最も信頼している参謀だ。
「伝達係さんに聞いたと思うんだけど勇者と名乗るものが攻めてくるの」
「はい、存じてます。時間稼ぎのための足止めの方法ですよね」
さすがに話が速い。
「しかし魔王様、そんなに勇者は強かったのですか?たとえ強くても魔王城に徒歩でたどり着くのは困難かと思うのですが」
確かに難しい。
人族と魔王城までは道中も険しく、結構な距離がある。
私たちは魔境内の転移は可能だけど。
「いや、なんというか明らかな異常性を感じたんだよね。身体強化魔法で無理やり突破してきそうな」
冬の山でも半袖で進軍してくきそう。
それにあの勇者一行の強さ、おそらく半分も実力を出していないように見えた。
どう対策すべきか…。
「異常性ですか…。もうその感じだとこのままだとここに来るのは確実なんですね」
アーサーは考える。
「ではもう一つ、魔王様は勇者とどのようにしていきたいのですか?」
「私は…殺す殺されというのがいやなだけ。みんな仲良く平和な終わり方にしたい」
真剣に顔を見て言うとアーサーはゆっくりとほほ笑んだ。
「ふふっ、やっぱり魔王様ですね」
とにかく時間稼ぎをして勇者にわかってもらえるような方法が見つかれば和平への道が開けるはず!
「では足止めの内容ですが地上の迷宮ダンジョンはいかがでしょう?」
「迷宮ダンジョン?」
「はい、ゴブリンさんが襲撃した近くに人族の集落があると思います。おそらく勇者はそこへ向かいます」
差しているのは魔境内唯一の人族集落だろう。
「確かにここは向かうね」
最近、私たち魔族と交友関係を深めている場所だ。
それにここの人たちは魔境の地形と魔王城の位置も知っている。
「ここに勇者を迷宮に誘導し、迷わせる作りにします」
アーサーの声には自信がこもっていた。
「私では魔力が足りないので製作はゴーレム様を中心に、いろいろな方を巻き込む形にはなりますが」
とても頼もしい。
「それと人族の集落の方々には勇者に嘘はつかないようにお願いしたいです」
「どうして?」
「私も詳しくはありませんが、魔族の手先として殺されるリスクがあるからです」
すごい、そこまでは頭が回らなかった。
「わかった。言っておくね」
「では時間がありませんのでさっそく製作にかかります!」
そう言ってパタパタと走り去っていった。
---
その後、アーサーから迷宮ダンジョンの設計図と説明が送られてきた。
300ページにもわたる迫真の内容は、本気すぎて論文レベルと言わざるを得なかった。
「いや力はいりすぎでしょ…」
これ全部読まなきゃいけないのだろうか…。
しかし、これは勇者であろうと1週間は迷い続けるんじゃないかという確信があった。
---
「これは…迷宮ダンジョンか?」
勇者の前に土塊でできたとてつもなく大きい迷路が立ちふさがる。
そこを遠くから見下ろすのは参謀アーサーとゴーレム。
ゴーレムはレンガを人型に積み上げたような大きな見た目をしている。
「これ以上ないくらいよくできました。魔王様、ほめてくれるでしょうか?」
戦士が前に出て斧を取り出して振り上げるのが見える。
「めんどくせぇな、ただの土塊だろ?ぶっ壊しちまえばいいだろ」
「じゃあ頼んだ」
「早めに頼む」
「え、こういうのって報告案件じゃ…。中に人とかも…」
「うおおおぉぉぉ!!」
僧侶だけが困惑している中、かまわず戦士が斧を振り下ろす。
「あ、あれ?えぇ!?ゴーレム様!防御魔法を!!」
「グオオォォォォ!!!」
攻撃をされた箇所に魔力を注ぎこみ土塊を集めて固め、魔力で補強して壊されないよう強化する。
「なんだこれ…結構かてぇぞ!」
戦士は力を籠める。
「ゴーレム様!私の魔力も使ってください!」
ゴーレムとアーサーは2人の力を合わせる。
そして「ドゴオォォォン!!」という大きな音。
見ると入口に穴が開く程度の被害が見える。
「や、やった。何とか最小限の被害で…ゴーレム様?」
見ると目の光を失っている。
「グ…ゴゴ…」
ズゥン!と前へ倒れる。
「あぁ…そんな!」
それと同時に
ドドドドドドドドド!!!
という大きな音がするのが聞こえた。
そう、設計図300ページに及ぶアーサー力作のダンジョンがまるでドミノのようにあっさりと崩れ去っていっているのである。
「えっ、嘘、待って!私のダンジョン!」
急いで魔力を込めるがもう間に合わない。
そして最後に「ズウゥゥン!!」という完全に崩れた合図のような音がする。
「おー!なんかわからないが崩れたな!」
片手で破壊した戦士はこの通りである。
「さ、進もうぜ!」
そして意気揚々と瓦礫となったダンジョンを進んでいく勇者一行。
それに対しアーサーは涙を流しながら見送るしかなかった。
「ゴーレム様…わ、私の力作ダンジョンが…」
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