#4 カコとコン
パークセントラルに到着したコンはミライと共にラボの入口に立っていた。
ラボの入口は厳重なセキュリティで守られており、電子パネルが静かに光を放っている。ミライがカードキーをスキャンすると、低い電子音が響き、厚い扉がゆっくりと開いた。
「こちらです、コンさん。」
ミライに促されてコンはラボの中に足を踏み入れる。内部は思いのほか広く、整然とした研究機器が並び、奥にはガラス張りの部屋がいくつも見える。無機質な空間ながら、どこか温もりを感じるのは、壁に描かれたパークの楽しげな様子を描いたイラストのせいかもしれない。
カコと俺はパークができる前。もっと言えば、この島の先遣探索隊時代からの付き合いだった。だが、彼女が出世コースに乗ったのに対して俺は
「カコさんはこの奥の部屋にいます。」
ミライがさらに先へ進むと、一人の女性がガラス張りの部屋の中でモニターに向かって何かを熱心に調べていた。白衣の背中にかかる長い髪がわずかに揺れる。彼女がこちらに気づくと、すぐに椅子をくるりと回転させ、立ち上がった。
「コン、久しぶりね」
カコ博士は柔らかな微笑みを浮かべながら、ゆっくりとコンの方へ歩み寄った。その瞳には、懐かしさと鋭い洞察が交錯していた。
「カコ……博士、本当に久しぶり……ですね」
コンは少し帽子を上げて挨拶代わりに軽く頭を下げる。その仕草にカコ博士は微かに笑みを深めた。
「敬語はやめてちょうだい、貴方が堅苦しい話し方をするのは似合わないわ」
「……そういう事なら、楽にさせてもらう」
「それで……昔話をしに呼んだ訳じゃないんだろう?」
「そうね、貴方にはどうしてもお話ししたいことがあったの」
そう言うと、カコ博士はコンに一束の資料を差し出す。
コンは静かにそれに目を通し始めてしばらくすると資料をめくる手を止めてカコ博士を静かに見つめる。
「……ずっと監視されていたとは、驚きだ」
彼の手元の資料には今までの無許可のセルリアンとの接触の幾つかが画像付きで詳細に記録されていた。
どのセルリアンと接触したか、どのエリアで活動していたか、すべてが克明に記されていた。
「コレを管理センターに?」
コンは少し悪戯っぽい笑顔で資料を閉じ、カコ博士を見据える。
「それを決めるのは貴方よ。」
カコ博士は微笑を崩さずにそう答えると、コンは少し眉をひそめる。
「……どういうつもりだ?カコ」
カコ博士はそんなコンに歩み寄ると、真剣な目付きでコンを見つめる。
「単刀直入に言うわ、ヒトの力だけでセルリアンを倒せる様に協力してちょうだい」
コンは一瞬言葉を失い、カコ博士を見つめた。博士の言葉には、これまで感じたことのない重みと決意が込められていた。
「……ヒトの力だけでセルリアンを倒す?それは……」
言葉を切ったコンは、自分の腰裏に装備されていたサンドスター製のナイフを思い出す。そのナイフは、フレンズの力を借りずにセルリアンを倒すために自身がサンドスターから削り出したもので、未完成かつ不安定なものだった。
「それが本気で出来ると?」
カコ博士は静かに頷き、彼の質問に答えた。
「もちろん簡単なことではないわ。でも、あなたがこれまでにセルリアンと戦い、データを提供してくれたおかげで、私たちは一歩ずつ答えに近づいている。」
彼女は部屋にあるモニターを操作し、セルリアンとの戦闘データやその構造を解析した映像を映し出す。
「見てちょうだい。これがあなたが戦いを通じて提供してくれた情報の成果よ。」
映像には、コンが戦闘中の様子が詳細に記録されていた。
そして、つい最近のセルリアンに無視をされたシーンでカコ博士は映像を止める。
「特筆すべきは貴方の特異性……つまりセルリアンに狙われにくい事だと考えています」
カコ博士の言葉に、コンは目を細めながらモニターの映像を見つめた。ファングセルが自分を無視してバイクに向かって動いた場面が映し出されている。
「……」
カコ博士はセルリアンの反応を解析したグラフやデータを表示させた。
「セルリアンは通常、強いエネルギー反応――いわゆる『輝き』に反応して攻撃を仕掛けます。しかし、貴方の場合、その反応が極端に低い。セルリアンにとって、貴方は『標的』として認識されにくいの」
コンは帽子のつばを軽く掴みながら、ため息をついた。
「だが、それが何だ、」
「そこが重要なの。」
カコ博士は新たな映像を表示させた。そこには、サンドスターの結晶を解析したデータと、それを利用して作られた試作兵器が映し出されていた。
「貴方のようにセルリアンに狙われにくい存在が、サンドスターの力を利用した装備を使えば、効果的ににセルリアンとの戦闘データを取れる可能性があります」
「なるほど、俺を実験台にするつもりか」
コンの皮肉に、カコ博士は静かに首を振った。
「実験台なんてとんでもない。貴方の協力なしでは、この研究は進められないの。むしろ、貴方がこのプロジェクトの中心になるべき存在よ。」
「……俺が?」
コンは目を細めながら、カコ博士の言葉の真意を探るように彼女を見つめた。
「貴方の戦闘データと、私の技術。それに加えて、貴方の戦闘経験と知識があれば、私たちは新しい可能性を切り開けるわ」
カコ博士の真剣な眼差しに、コンはしばらく沈黙していたが、やがて静かに口を開いた。
「……もしその研究が成功すれば、多少なりともフレンズたちを危険に晒さずに済むかもしれない……そういう事か」
「その通りよ」
カコ博士は深く頷いた。
「ただし、成功にはリスクが伴うわ。貴方自身もそれを十分理解していると思うけれど……」
「リスクなんて今更だ」
コンは軽く肩をすくめて笑った。その笑みに、カコ博士はわずかな安堵の表情を浮かべるが、すぐに真剣な表情に戻る。
「……この計画はあくまでも私個人の研究です、管理センターにはまだ正式には通していません。成功するまでは、公にできない要素も多いわ。」
「非公式の作戦ってわけか、まあ、いつも通りやることは変わらない。俺はセルリアンを倒し続ける」
カコ博士の提案を受け入れたコンは、ラボの片隅に用意された試作装備の一つを手渡される。それは、サンドスターの結晶を研磨して形を整えた刃を2枚の金属プレートでサンドにしたナイフだった。
「なるほど……」
コンは軽くブレードを振り、その感触を確かめた。切れ味は申し分なく、手に馴染むように調整されているのが分かった。
「その装備は、貴方の戦闘データから特別に設計したものよ。刃はサンドスターの力を利用してセルリアンにダメージを与えれるわ。ただし、脆さの問題は完全に解決出来てないから刃こぼれには気をつけてちょうだい」
カコ博士の説明を聞きながら、コンは新しい相棒をナイフホルダーに収めると静かに立ち上がり、深く息を吸った。
「分かった。これで少し前進って訳だな」
その言葉には、わずかに新たな戦いへの覚悟が込められていた。
カコ博士は安心したように微笑み、少し間を置いて言葉を続けた。
「このプロジェクトにはまだ課題が多いわ。でも、貴方の協力があれば、フレンズたちの負担を軽くすることができる。どうか、これからも力を貸して欲しいわ」
「了解した。ただ、俺は俺のやり方でやらせてもらう。それでも良いな?」
「もちろんよ。それが貴方の強さだもの。」
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