夜伽話

高山小石

1夜 やまんばとほこら(昔話風)

 昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。


 ある日のこと、おじいさんは、用事で山向こうの村に行くことになりました。おばあさんに留守を任せて、おじいさんは山を登り始めました。


 おじいさんが若い頃は明るいうちに山向こうまでたどり着けたのですが、この日は山道の途中で日が暮れてしまいました。


 山はまっ暗。おじいさんも灯りは持っていましたが、小さな灯りを頼りに山道を進むのは危険です。山で夜を過ごすしかありません。


 おじいさんは、良い場所はないかとあたりを見回しました。すると、離れた場所に小さな明かりが見えました。おじいさんは人がいると思い、明かりの方に行くことにしました。


 明かりの元は小さな家でした。

 おじいさんは、戸口前で頼みます。


「もうし夜分に失礼します。山を越えきれずに日が落ちてしまいました。軒先で良いので、どうか一晩、貸してはくださらんか」


 しばらくして返事がありました。


「あらあら、それはお困りでしょう。粗末な家ですが、どうぞ上がってくださいな」


 家の中から出てきたのは、若い女性でした。

 若い女性は「こんなものしかありませんが」とおじいさんに干し芋とお湯を出し、「寝るのにお使いください」と部屋の半分を衝立で区切って貸してくれました。


 おじいさんはお礼を言うと、ありがたく干し芋とお湯をいただき、疲れていたので早々に横になりました。



 おじいさんは、ぼそぼそと聞こえる話し声に目を覚ましました。目を閉じて横になったまま、なんとはなしに声に耳をかたむけます。


「さっさとシメるんじゃ」

「でも」

「骨と皮だけながら久々の獲物じゃぞ」

「家の中が汚れてしまうでしょう」

「なら外でヤればいいんじゃ」


 目覚めたばかりでぼんやりしたままのおじいさんは、不思議に思いました。

 夜も明けきらぬうちから朝食の準備かのう。それにしても老婆の声がする。この家は他に部屋もないほど狭いのに、老婆は先程どこにいたのか。


 気になったおじいさんは静かに目を開きました。ちょうど衝立の隙間から向こう側がのぞき見えます。さきほど良くしてくれた若い女性はこちらに背を向け座っていました。しかし若い女性の向かいに老婆の姿はありません。揺れるロウソクで壁にできた影も、ひとり分しかありません。


 見落としているのかと、おじいさんが目を凝らした瞬間、


「見ィたァなァああ!!」


老婆の恐ろしい声が響きました。


 声の元に目をやったおじいさんは、若い女性の頭のうしろにくっついている老婆の顔を見て驚きのあまり目が覚めました。その老婆の怒りに燃える目と目が合いました。おじいさんはとっさに衝立を女性側に倒して小さい家を飛び出しました。


 おじいさんはなにも履かず持たずに夢中で逃げました。背後から怒った声が近づいてきます。


「だからさっさとシメれば良かったんじゃ!」

「ちょうど外へ出たのだからいいじゃない」


 今更ながら、先ほど二人が話していた獲物とは自分のことだったのか、捕まったら食べられてしまう。おじいさんはこけつまろびつ進みます。


 と、おじいさんは扉のような物にぶつかったので、すぐに開いて中に入ると閉めて、体を縮こませて、ひたすらに助かりますように助けてくださいと祈りました。


 しばらく怒鳴り声が聞こえていましたが、やがて朝告げ鳥の声がして、「ちっ。もう夜明けじゃあ」「明るくなる前に帰らないと」と静かになりました。


 ぶるぶる震えていたおじいさんは、ずいぶんたって動けるようになると扉から外に出ました。


 明るくなってから見ると、おじいさんがかくれていたのは小さな祠でした。助けてくれたお礼にと、おじいさんは祠を掃除し、何度もお礼をして山をおりました。


 無事に山向こうについたおじいさんは、用事先でその話をしました。


「そりゃあタチの悪いやまんばだぁ」

「無事に逃れて良かったねぇ」

「じゃが、帰り道が心配でのう」

「あぁ帰らにゃならん」


「私が参りましょう」


 名乗りを上げたのは若い僧侶でした。

 若い僧侶はおじいさんの話を聞いて、祠があるということは、誰かがそこに祠を建てたということ。なにかしら建てる理由があったはずだ、と考えました。

 それで自分が行こうと思いました。


 若い僧侶は、この里の人たちから話を聞き、おふだとおきょうを用意すると、早い時間から山に登り、祠の位置、祠の中、近くの山道をよくよく調べました。そうしてすべての準備を整えると、夜を待ったのです。


 やがて山が闇に包まれると、染み出すように遠くに明かりが現れました。若い僧侶は明かりへと進み、おじいさんが訪れた小さな家にたどり着くことができました。


「もうし、私は旅の僧侶です。山を越える途中に夜になってしまい難儀しております。一晩、軒先をお借りしたい」


「まぁまぁ、それは大変でしたね。軒先と言わず、どうぞ中へお入りくださいな。狭い家ですが、ささ、どうぞ」


 若い女性は愛想よく、あたたかい汁物さえ用意して若い僧侶をもてなしました。部屋に衝立を置き、向こう側で寝ていいとも言いました。


 若い僧侶はすっかりくつろいだふりをして、「眠る前にかわやへ行きたい」と告げました。


   ↓以下ダイジェスト↓


若い僧侶は、屋外にある厠(トイレ)から逃げ出し、追いかけてきた、やまんばをくっつけた若い女性を、おじいさんがかくれていた祠の近くまで誘い出します。

そこで祠を光らせて、力を失ったやまんばを経典にはさんで、祠にそなえてお経をあげる。

これでやまんばを再び封印できた。

若い女性は操られていたのから解放される。



   ※※※おしまい※※※



という展開でした。

モチーフは『三枚のお札』。

他、昔話あるある。

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