狂ったレディは人生を謳歌する
引きこもりすみっこ(..)💦
プロローグ1
998回目の人生を、私は生きている――いや、生きさせられている。
いつからこの呪われたループが始まったのか、記憶は霧の彼方に溶け、もはや追いかける気力すらない。
繰り返される人生の中で、心は軋み、尊厳は塵と化し、人間だったはずの私は、とうに壊れていた。
涙さえ枯れ果て、虚ろな瞳で過去を振り返る。
998回の人生。そのどれもが、同じ結末へと収束する。
疲れ果てた私は、ループの繰り返しに全てを諦め、ついに手を血で染めた。
殺人者となったのだ。 「人は、こんなにも簡単に殺せるものなのね。」
血に濡れたドレスを翻し、軽やかなステップで踊る。
満面の笑みを浮かべながら、足元には、ついさっきまで息をしていた者たちの亡魂が積み重なる。
今はただ、冷たく、静かに横たわるだけ。
「これで何人目かしら? まぁ、どうでもいいわ。どうせこの先の運命も、人生も、すべて決まっているのだから。」
無表情に呟き、私は確然とした視線を虚空に投げる。 これまでのループでは、いつも最後は誰かの手によって殺され、生き返り、また殺される――その繰り返しだった。
ならば、私が人を殺したって、何も問題はないはずだ。
この物語のルールが、私を縛るのなら、私もまた、そのルールの中で自由を奪う権利がある。 血と死の匂いが漂う部屋の中心で、私はくるりと回る。
壁には赤黒い飛沫が散り、床には刃物と暴力の痕跡が刻まれている。
その上で、私はただ、静かに笑う。 そこへ、いつものように“あの人”が現れる。
「セレスティア、無事か? すまない、私の不甲斐なさでまた君を危険に晒してしまった。」
物語の主人公であり、ヒーローである彼――アーク。
いつも決まったタイミングで現れ、私を「救う」役割を果たす。
「アーク、これくらい平気よ。もう慣れっこなんだから。」
私は冷めた声で答え、台詞を合わせる。この世界のルールに従うしかないのだから。
だが、アークは私の周囲を見渡し、動揺を隠せない目で私を見つめる。
「慣れっこだと? そんなわけにはいかないだろう! …だが、その前に、この惨状は一体何だ? 私が来る前に何が起こったんだ、セレスティア?」
部屋の隅々には血が飛び散り、私の足元には殴られ、刺され、息絶えた者たちの亡骸が転がっている。
その上で、私は無表情に立つ。
「ああ、彼らは仲間内で殺し合ったのよ。それが『事実』。」
私は平然と嘘をつく。 この物語のヒロインである私は、どんなことがあっても死ぬことは許されない。
ハッピーエンドを迎えるまで、私の命は守られ続ける。
だが、ハッピーエンドの先にある物語など、誰も知らない。
このループの中で、ヒロインである私が殺人者となっても、誰も疑問を抱かない。
私が口にした言葉だけが、この世界の「事実」となるのだ。
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