「有名だよね、メアリー・スー」

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 俺の名は鈴木太郎。

 ブラック企業務めだった俺はある日、トラックに引かれそうな子供を助けて死んでしまった。

 そのまま俺の人生は終わるかと思ったが、目を覚ますと異世界の貴族子息、ジョンになっていた。

 ジョンとなった俺はスキル『剣』を持っていたが、実家のスミス家は魔法に傾倒していた。だから、役立たずとして追放されてしまった。

 その後は冒険者となり、実家では隠していたスキル『剣』の真骨頂、自身の剣に魔剣や聖剣の力を付与できる力を使って、自身のランクを上げていった。

 そんなある日、依頼の途中で成敗した悪徳商人に無理やり奴隷とされていた少女、アンに出会った。


「ありがとうございます! お礼に何でもしますからお側において下さい!」

「女の子なんだから自分を大切にしな」

「なんてお優しい! ついていきます!」


 こうして仲間となったアンと一緒に冒険者として一緒にすごしていた。

 だがある日、そんな活躍を耳にした実家が俺に家に戻るように言われた。勿論断った。

 それを気に食わなかった実家が俺に暗殺者を差し向けたが難なく撃退する。

 そしてそんな俺に業を煮やしたスミス伯爵は闇の魔術に手を伸ばし、モンスターとなって町中で暴れ出した。

 埒外の強さだったが俺の前には無力だった。

 なんとか被害を最小限に抑えて討伐に成功した俺だったが、この活躍が王の耳に入り、貴族として戻ってくるように懇願された。

 最初は断ったが、それでもと懇願されたので仕方なく応じることにした。

 先の混乱で助けた王女を妻として貴族となり、側室としてアンを迎え入れてそのまま地方の領地で領主となった。

 色々あったが、穏やかな生活を送れているので今は満足だ。


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「タイトルはズバリ『典型的異世界チート主人公の生涯』だ」

「見事なまでに現代日本版メアリー・スーですね」


 A4用紙一枚に対してあまりに少ない文字の羅列はしかし、それだけで十分なユーモラスを持ってるように思った。

 これ見て笑うやつもいるかも知れないな。

 絶句するほうが多い気もするが。


「おお、良かったよ。思ったより好意的に受け止めてくれて」


 ホッとした表情の先輩。

 昨日の今日で本当に書き上げられるのかと疑ったが、この内容なら確かに書けるだろう。


「まさかトレッキーテイルをオマージュするとは思いもしませんでしたよ」

「正直面白いと思う感性までは手に入らなかったが、曲がりなりにも調査して知った面白さの源泉を無駄にしたくないなって思ってね。そしたらこうなっちゃったよ」


 トレッキーテイルとはメアリー・スーの語源となった作品のことだ。

 二次創作小説に登場しがちな、非現実的で思春期の願望を具現化したようなオリジナルキャラクターを揶揄した小説。そう言われればメアリー・スーとは何を指すのかは想像に難くないだろう。

 原文も短い文章で主人公がどうしたこうしたと羅列したものになるので、ちょうど先輩が冒頭で出した物と似た雰囲気になるのだ。


「そこまで調べたなら、その調査結果を論文っぽくまとめればいいのに」

「さすがに興味の範囲外でそこまでの情熱は燃やせないよ。むしろ君はどうだい?」

「遠慮します」


 先輩はこれを部誌に乗せるつもりのようだが、さて、最低ページ数とか指定されてなかったかな?


「不躾なことを聞きますが先輩。これって最低ページ数の要項とか満たしてます?」

「……そんなのあったっけ?」

「分からないんで部長の確認を、どうぞ」

「マキちゃんもう帰ったよね……?」

「おそらくは」

「じゃあ明日確認するしかないね」


 今までもこんな感じで煙に巻いたのだろうか? 部長の苦労が忍ばれる。


「それはともかく、私は全てをさらけ出したぞ。君も早く最新作を見せるんだ」

「まだできてなくてサーセン」


 意外というか先輩は俺の書いた小説を気に入ってるらしい。

 大体は短編で、殆どは主人公の一人称視点のヒロインとの掛け合い作品ばかりだ。

 我ながら芸が無いが、こういう作品が好きで筆が伸びやすいのだから仕方ない。群像劇とか考えるだけで頭がパンクしそうだ。書ける人は凄いねほんと。


「とかなんとか言って〜。もう完成してるんじゃないかい先生?」

「この間まで書いたのは納得いかなくてボツにしました」

「君も大概凝り性だね」


 先輩に倣うわけじゃないが、流行りに乗っかってとあるスキルを持った主人公とヒロインの冒険者物を書こうと思った。……のだが、話が長くなりそうなのでお蔵入りしまった。

 思いつくままに書いてしまってこうなってしまうのでは、先輩の評価を覆せそうになくて悔しい。


「今回も適当な学園ものにしようかなって漠然と考えてます」

「つまり具体的には決めてないと」

「まあ、はい」

「ならばリクエストだ」

「リクエスト?」

「うむり」


 先輩は右手で眼鏡を構えながらキラリと輝かせた。


「悪役転生と現代ダンジョン物を組み合わせた作品を作ってくれ給え」

「えっ」

「悪役転生と現代ダンジョン物を組み合わせた作品を作ってくれ給え」

「聞こえなかったわけじゃないですよ」


 お題を貰えてちょうどいいまであるが、単純に疑問だ。


「大丈夫! 君なら出来るよ!」

「なんだって俺に……」

「君なら、私を楽しませる小説を書けると信じているからさ!」

「うわーお……」


 荷が重いなぁ。楽しんでくれるのは有り難いが、俺はもっと気楽に創作活動をしたいんだけど。


「期待してるぞ、後輩くん!」

「……やれやれ」


 決して先輩の笑顔に負けたわけではない。ないけど、やるしかなさそうだ。

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