Bluewolfs戦記 異世界に近未来兵器で乗り込んだら、そりゃ無双もするわ!!

猫好きおじさん

第一話 機密作戦 (1)

AD.210X年

 

 残念ながら、人類は滅亡の道を歩んでいた。


 BC兵器が中心に使用され、人類の三分の二を死に至らしめた非核大戦が勃発して二年。

 都市という都市がゴーストタウンとなり汚染された空の下、人々は依然と戦い続けていた。


「お前らは、一体いつになったら上官に敬意を払うようになるのだ?!」


 次の作戦のブリーフィングが終わった後、召集をかけられた神代耕助じんだいこうすけ白神仁しろがみじんは到着早々に怒鳴られた。


 戦時下にあるアメリカ軍の軍事施設の一室に呼ばれた二人は悪びる様子もなく上官であるスコット=ブレナン中佐の前に立った。


「申し訳ありません!途中で腹が痛くなってトイレに寄ってました!」


 耕助は敬礼しながらそう言って笑みを浮かべる。


「自分は特にありません。気が乗らなかったのでのんびり来ました。」


 仁もそう言って、モデルか二枚目映画俳優のような端麗な顔に笑顔を見せる。こちらは敬礼もしない。


「ブリーフィング後、十分以内に来るように伝えたはずだ!それがなぜ三十分以上かかったのだ?!ケツの穴になにか突っ込んでたのか?!」


 スコットは、神経質そうな顔の額に青筋を浮かべながら再び怒鳴る。

 しかし、二人は意に介することなく後ろに手を組んだまま真顔になって中佐を見た。


「中佐殿。この場での下ネタは適正とは思えません。訂正と謝罪を要求します。」


「自分も白神少尉と同じ意見であります。」


 二人は直立不動の姿勢で斜め上を見ながらとぼけたように言った。


 スコットは、二人の舐めきったその態度に思わず拳を握る。

 すると、それを見兼ねたように背後の二人掛けソファから一人の女性が立ち上がり二人に近寄ってきた。


 女性の姿は軍の内部にいて軍服ではなく、白いブラウスと黒のタイトスカートの上に白衣を纏い軍人というよりも医者を思わせる。

 見事なプロポーションは白衣の上からでも隠すことが出来ない。

 

「ゲッ!」


 普段なら美女を見ればテンションを上げる耕助が、美しいその女性の顔を見た瞬間、この世の終わりのような表情見せて奇声を上げる。


「まあまあブレナン中佐。そのくらいにしておきましょう。…久しぶりだな?…BlueWolfsブルーウルブス。」


 女性は、仁の前に右手を差し出しながら二人の傭兵時代の二つ名を口にした。

 ブラウンの髪を後ろに束ね自己主張が強そうな目に縁の細いメガネ。その白人の女性は、かつて二人が傭兵だった頃に、二回だけアメリカ軍の依頼を受けた時のエージェントでもあった。


 耕助の表情に若干、溜飲を下げたスコットは笑みを浮かべて二人に紹介する。


「どうやら知り合いのようだな?…ならば紹介するまでもないだろうが、技術士官のエレノア=ミラー少佐だ。今回、お前達には別の任務を与えることになった。彼女はその担当指揮官だ。」


「ありがとうございます、ブレナン中佐。そこからは私が説明します。」


 エレノアは、仁が一向に握り返さない様子に差し出した手を引きながら言葉を続けた。


「そんなに嫌われるようなことをしたつもりはないんだがな?…仁。イイ男にそういう態度をされると女は結構傷つくものだぞ?」


「どうかな。あんたはそんなタマじゃないだろう?それに、あんたから受けた依頼にいい思い出がないんだ。」


 仁は口元に笑みを浮かべて返した。

 しかしその艶っぽい目の視線には、かつての任務で味わった苦い経験が色濃く滲んでいる。

 エレノアは小さく肩をすくめた。


「まあ、そう言うな。今回は『いい思い出』になるハズだ。…では、本題に入ろう。ブレナン中佐が言ったように、お前達には別の任務が与えられる。先ほどまでのブリーフィングは忘れていい。言うまでもなく、極秘事項だ。当然、正規の軍事作戦には組込まれていない。」


 エレノアはスコットの横に置かれていた小型のプロジェクターを操作しながら、壁に一枚の衛星写真を投影した。


「これは、かつてカナダのハドソン湾沿岸部に存在した、旧ソ連の科学研究施設跡だ。コードネームは『アヴァロン』。」


 投影された画像は、雪と氷に覆われた広大な荒野の中に、不自然に黒い染みのように巨大なコンクリート構造物を中心にいくつかの建造物が取り巻く施設を捉えていた。


「BC兵器の開発競争が激化した非核大戦勃発前、ソ連が崩壊する直前まで、この施設でなかなか厄介な研究を進めていたらしい。それが、BC兵器を無力化する、あるいはそれを上回る『何か』だ。」


 エレノアの声には、微かな興奮と、それを抑えつけるような緊張感が混ざっていた。


「上回る『何か』…BC兵器よりヤバい?」


 耕助は、露骨に嫌そうな顔で尋ねる。


「その可能性が高い。施設は我軍が爆撃を行い、現在は以前に比べ弱体化しているが、内部にはまだデータ、あるいは『成果物』が残されているはずだ。お前達には、そこへ潜入し、残された情報を全て回収してもらう。」


 仁は、エレノアを呆れたように見ながら聞く。


「なぜ、俺たちなんだ?この施設がそんなに重要なら、特殊部隊デルタフォースの仕事だろ?」


特殊部隊デルタは送れない。」


 エレノアは即答した。


 「この地域一帯は、未だにソ連崩壊後に残存した武装勢力が跋扈ばっこしている。それに加えて、施設自体が高度なセキュリティシステムと、戦力が未確認の守備部隊によって守られている可能性が高い。」


 彼女は再びプロジェクターを操作し、次のスライドに切り替えた。そこには、赤外線画像と思しき施設内部のぼやけた写真が映し出されていた。


「特に、アヴァロンの中枢部は、高濃度の未知の化学・生物兵器によって汚染されていると推測される。通常の装備と人員では、侵入は不可能に近い。」


「じゃ作戦は中止だな。不可能なんだろ?」


 耕助はそう言って嘲笑するように口の端を上げた。


「そうはいかない。お前達に拒否権はない。」


 エレノアは即座に異議を認めない言葉を綴った。

 その自己主張の強い瞳が別の思考に揺らぐ。


「それに今回の作戦には、もう一つ実行してもらう事がある。これがその理由だ。」


 そう言って施設の衛星写真から別のスライドに切り替えた。

 そこには、二人も見たことがない『コング』の姿が映る。


『コング』

 正式名称、WW《ウォーリアウェポン》-103。

 非核大戦が始まる数年前、アメリカの兵器産業が開発した二足歩行型の機動兵器。


 世界が枯渇し鉱石資源を原料にした弾丸や砲弾が消えた後、飛躍的に進んだ発電や蓄電の技術から、電力を武器とするレールガンや荷電粒子砲などが台頭した。


 コングはそれらの重火器を携行出来る上に、熱波や冷気はもちろん放射能などの環境下でも戦闘行動が取れる事で次世代兵器として期待された。


 ただ、大型のバッテリーパックをはじめ鈍重な機動性のため主力兵器として採用を見送られる所だった。 

 しかし、リリースから1年後にコングの高速移動を可能とした新技術『リニアブースト』が搭載される。


 それにより機動性の問題が一気に払拭され、一人の兵士が戦車並みの火力を持ち、戦闘ヘリに匹敵するほどの機動力を有したことでその優位性に開発・生産は飛躍的に進んだ。


 『コング』の名前の由来は人型に近くなった現在と違い、開発初期のフォルムがゴリラに酷似していたことから研究開発者達が愛称として呼んでいたものを通称として使われ今に至っていた。


「お前達は、我軍きってのコング乗りだ。その腕を見込んでこの新型コング『ラグナロク』で実戦テストを兼ねて作戦行動をしてもらう。これが拒否権のない理由だ。」


 エレノアは、そう言って両手を腰に当てて二人を見据えた。


「ムチャクチャ言いやがって。」


 耕助はそう言いながら仁の様子を窺い見る。

 強引な理由の上に、この戦時下で今更の『新型』。

 おまけに実戦テストを不可能と言われる作戦で実行しろと言う。

 しかし、エレノアは二人の思惑に構うことなく話を続けた。


「このラグナロクと従来機の大きな違いはアトミックチューンを施してあることだ。これにより十年間は無補給で戦闘行動が可能となる。それに準じて装備される荷電粒子砲やレールマシンガンの武装のパワーも桁違いになっている。」


「アトミックチューン?なにそれ?」


 耕助が頭を捻る。


「原子力で動くんだとさ。…また物騒なものを作ったもんだ。稼働時間を延ばすことでますますコキ使うつもりということか?」


 仁はため息を吐きながら解説して皮肉を飛ばす。


「そう言われても否定はせんがな。…背中のバックパックに搭載されている超小型の原子炉は一年に一度程の期間でメンテナンスを行うがそれ以外は自律対話型のAIが管理することになる。」


「自律対話型?…耕助、良かったな。友達が出来そうだぞ?」


「やかましい!」


 仁の言葉に耕助は舌を出す。


 しばらく成り行きを見ていたスコットは、二人の様子に呆れながらも口を挟んだ。


「ふざけている場合じゃない。この任務に失敗は許されん。成功すれば非核大戦を終わらせる、あるいは少なくとも、戦況を一変させる可能性がある。」


 そして、壁に映るラグナロクをコンコンと叩きながら続ける。


「そのためにわざわざエレノア少佐が作り上げたこの機体を用意したのだ。…私個人としては、このような重要な作戦を任せる上に、お前らのような厄介者のために新型機を与える事自体、非常に不本意だがな。」


「よく言うぜ、中佐。これで厄介払いが出来るって顔してるぜ?」


 耕助は、両腕を組んで皮肉っぽくスコットを見る。


「ああそうだ。この作戦が成功した上でお前らがくたばってくれれば俺も安心して眠れる。」


 その様子を見ていたエレノアは、半ば呆れながら三人の会話を切るように話を続けた。


「お前達ならこのラグナロクをもってすれば、アヴァロンの深部へ到達できるハズだ。どの道、言っても仕方のないことだが、この任務に通常の軍規は適用されない。現地での判断は全て任せる。」


「…ずいぶん気前がいいな。耕助コイツもいるんだぜ?派手になってもいいのか?」


 仁は、耕助を親指で指すと笑いながら言った。

 それにはスコットが答える。


「構わん。お前達が軍規を守るなどこちらも考えていない。だが、覚えておけ。最優先事項は情報の回収だ。好き勝手に暴れるのは結構だが、情報は必ず持ち帰れ。」


「情報ね。」


「そうだ。お前達の命よりも重要なものだ。」


「まったく遠慮がねえな。死んじまったら情報とやらも持って帰れねえだろ?…仁くん、これはパワハラではないのかね?」


 耕助はそう言って仁に視線を送った。

 すると、エレノアが耕助に近寄ってしなだれる様に肩に手を回す。


「耕助?ゴチャゴチャ能書きなんかいいだろ?私の頼みを聞いてくれよ。お前と私の仲なんだから…。」


 耳元でそう囁くその色気ある仕草に、耕助は狼狽してエレノアの体を引き剥がそうとする。

 しかし、妙に力が入らない。


「て、てめえ!俺はもう騙されないかんな!この前の時だってお前の色仕掛けに騙されたせいで、今でもコイツにいじられてんだぞ?!」


 耕助がそう喚いた瞬間、再びスコットは青筋を浮かべると両手でパン!と叩いて大きな音を鳴らした。


「もういい!出発は三時間後だ!今度こそ遅れるんじゃないぞ?!…それにミラー少佐。少しは自重しろ。只でさえお前は目立っているんだからな。」


「分かりました。」


 エレノアは耕助から離れ姿勢を正すとスコットに向かって恭しく敬礼をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る