第37話 交渉

腐っても俺は辺境伯家当主、王城の検問を次々と遠される。


そして、国王陛下の私室に到着した。


部屋に入ると近衛騎士団長のレイバン殿と、陛下が座って待っていた。


「「ユアン陛下、お久しぶりでございます」」


「うむ、二人共元気そうで何よりじゃな」


「陛下も壮健で何よりです」


「はい、これもアイクのおかげです」


そこで俺は一歩下がり、先にセレナ様に任せることに。

その間にも、近衛騎士団長の視線は俺に向けられている。

それは憎悪や嫉妬の類いではなく、単純な興味本位な視線といったところか。


「さて、本体に入るとしよう。ここにいるレイバンは信用していいから、腹の探り合いは無しにするとしよう」


「どういうことでしょうか?」


「まずはセレナ殿に聞こう……王太子であるイースに悪感情はあるか? これは正直に言ってもらって構わない」


「……何も思わないと言ったら嘘になります」


少し迷った末にセレナ様が答えた。

それもそのはずで、あんな仕打ちを受けたのだから当然だ。

俺なんか、会ったら殴ってしまいそうだ……いや本当に。


「当然のことだと思う。しかし、学園において一緒になる機会もある。その時はどうするつもりなのだ?」


「私からは特にアクションを起こすつもりはありません。というより、なるべく関わらない方向で行くつもりです。新しい婚約者の方に何か言われるのも嫌ですし」


「マリア嬢か……アレについても考えなくてはいかんな。とりあえず、セレナ殿の考えはわかった。それなら、こちらからもイースには関わらないように言い含めておこう」


「ありがとうございます」


そこでセレナ様が下がり、俺を前に促す。

ちなみにレイバン殿は相変わらず俺の動きを見ていた。


「アイク殿、まずは父上の回復を祝わせて欲しい。奴とは長い付き合い故に、私個人としても嬉しい出来事だ」


「ありがとうございます。父上も陛下によろしくと仰ってました」


「そうか。いずれ、何処かで会いたいものだ。立場上、中々会えることはないが」


「それは仕方ないかと。父上も会うとしたらお互いに死ぬ時くらいにだろうと」


デュランダル家は国を守り、アスカロン家は国境を守る。

それが初代より続く盟約である故に、お互いにその場から離れる機会は少ない。

二人も学生時代以来、会ってないという話だった。


「確かに死んだとなれば流石の私も国境に行くだろう。さて、本体に入ろう……最初にアルヴィスからの手紙でお主を学園に編入させて欲しいと。自分が国境を守る間に見聞を広めて欲しいとのことだ」


「ご迷惑をおかけいたします」


「いや、元々其方は通う予定ではあったのだ。むしろ、若きお主に負担を強いたことを許して欲しい」


「いえ、何も国境ばかりに目を向けるわけにはいきませんから」


色々と言いたいこともあるが、前世の記憶を思い出した今ならわかることもある。

そもそも国の内部で権力争いがあったり、南の国は友好国とはいえ油断は禁物。

西には魔の森があり、そちらにも対処しなくてはいけない。


「ふむ、本当にしっかりしておる。彼奴は後継の育て方が上手かったのか……それに比べてワシはいかんな」


「それは……」


「いや、すまぬ。それで……お主も良い感情は持ってないということでよいか?」


「申し訳ありませんが」


思い出すだけで腹立たしい。

許されるなら、もう1発殴りたい……いや、3発くらいか。


「当然の話だろう。しかし、問題を起こすのは困る」


「もちろんでございます……ただ、あちらから手を出してきたら如何でしょう? イース王太子に


「はぁ……そうなのだ……その時は多少手荒にしてもらって構わん。お主だけを罰することはないと約束しよう」


「感謝いたします」


よし、言質は取った。


はっきり言って、奴らが何もしないわけがない。


特に……あのオズワルド公爵がな。


故に、これで心置きなく叩き潰せるというわけだ。

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