第34話 アスカロン家の密約

それからの日々は忙しくなった。


俺は父上と共に国境に向かい、小競り合いに来るヴェルダンを粉砕した。


これでアルヴィス復活という情報がいき、ますます奴らは攻めにくくなるだろう。


山の方も警備を強化したし、道などは岩で通行止めしたので易々とは入ってこれない。


これで、ひとまずは俺が一年ほど抜けても平気だろう。


「さて、やることはこれくらいか」


「ん、後は私達に任せて」


「ああ、世話をかける。オイゲン、父上のことを頼んだ」


「ええ、お任せください。セレナさんのことは別として、アイク様も学園生活を楽しんでくださいませ」


「学園生活か……まあ、考えてみる」


そもそも幼き頃から稽古に明け暮れ、学校など幼少期以来かもしれん。

記憶を取り戻す前の俺は、父上が倒れることに関係なく学校など行く気がなかった。

そんな暇があったら敵を倒すこと、強くなることを優先したいと。

ただ今は真の意味で当主になるなら、そういう経験も必要だろうなと思う。

二人に挨拶を済ませたら中庭にいるエレンの元に向かう。


「アイク様!」


「エレン、精が出るな。しかし、本当にすまない。ろくに稽古をつけてやれなかったな」


「いえ! 基礎は叩き込んで頂きました! 次に会う時までには一緒に戦えるように頑張ります!」


「そうか……では楽しみにしている。一応、言われた通り父上には頼んでおいた」


「……はは……ありがとうございます」


「うむ……死ぬなよ」


本人から頼まれたが、父上の稽古は俺でもきつい。

夏休みに戻ってくるまでエレンが生きてることを願うとしよう。

最後に治療部屋にいるセレナ様と父上の元に行く。

扉が開いていて、セレナ様が父上の身体を調べていた。


「どうじゃ?」


「……凄いです、もうほとんど完全回復してます」


「くはは! なら良い!」


「でも、無茶はダメですよ?」


「うむ、肝に命じよう」


どうやら最後の検診でお墨付きをもらえたらしい。

本当に俺が出て行くまでに回復してしまうとは。

相変わらずバケモノである。


「なら良いですけど……アイクもいるし、心配いらないですね」


「あぁー……いや、なんだ……おい、お前が言え」


父上から視線を向けられたので部屋の中に入る。

そう、実は……セレナ様には俺が王都に行くことは知らせていないのだ。

理由は簡単で、まだ確定はしてなかった。

ほんの先日、王都より便りが届いて、正式に許可が出たということだ。


「セレナ」


「あれ? アイク?」


「父上のこと感謝する。それと、荷造りはもう良いのか?」


「は、はい……本当にお世話になりました。少し寂しいですけど……アイクもお元気で」


「それなんだが……俺も学園に通うことになった」


「……へっ?」


セレナ様は目を見開いて固まってしまう。

どうても良いが、真っ直ぐに見つめられて照れ臭い。


「いや、俺も当主として未熟だからな。それに父上が復帰したし、これを逃すと学園生活など送れないと思って」


「そ、そうなのですか? ……でも、アルヴィス様は病み上がりですし」


「ワシのことなら心配いらんですぞ。セレナさんのおかげで、この通り全快じゃ」


父上がそう言い、マッスルポーズを取る。

50を超えたとは思えないムキムキぶりである。


「でも、アイクは国境の守護神ですし……」


「例のあの件で奴らも暫くは大人しいはずだ。それとも、俺がいては迷惑か?」


「いえ! そんなことは……むしろ、嬉しいと言いますか……でも離れるって覚悟してたのに……わ、私、荷物の最終確認してきますね!」


そう言い、両手で顔を抑えて走り去っていく。

やはり、俺がいては迷惑かもしれんな……俺、見た目怖いしな。

迷惑はかけないように心がけよう。

すると、父上から圧を感じる。


「アイクよ、わかっておるな? 彼女は気遣いの人、ワシらが守ると言ったら気を使う」


「ええ、分かってます。なるべく気づかれぬように守ります」


「なら良い。して、害するものは……」


「「叩き潰す」」


言葉が重なり、二人で笑みを浮かべる。


最後に拳を合わせ、俺も最後の荷物確認のため部屋に戻るのだった。

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