第29話 帰ってきた日常

それから更に1週間が経ち、恐ろしいことになった。


いや、正確には嬉しいことではあるのだが……。


我が父上ながら化け物過ぎやしないか?


「くははっ! そんなものか! でかくなったのは図体だけかのう!」


「このクソ親父が!!」


「親をクソとは何事じゃ!」


「人を騙す奴なんかクソ親父で十分だ!」


そう、今まさに庭にて打ち合いをしている。

父上から少し身体を動かしたいと言われ、最初は手加減をしていたら……相手が、いきなり本気モードになって滅多打ちにされた。

俺は己の馬鹿さに腹が立ち、こちらも本気で相手をすることに。


「戦場で油断した者から死んでいくと教えただろうが!」


「それとこれとは話が別だろ!」


「言い訳ばかり達者になりおって!」


「その減らず口を叩いてやる!」


「やれるもんならやってみせるが良い!」


そう言い合ってる間にも、物凄い速さで攻防を繰り広げる。

これが一週間前まで、二年も寝たきりだった男なのだろうか?

今の俺が本気で戦っても勝てるかどうかと言ったところだ。

……まあ、倒れる前の父上には勝ったことないが。

つまり、弱っても俺くらいの強さはあるということか。


「この化け物が!」


「ははっ! バーサーカーとか呼ばれてるらしいがまだまだじゃな!」


「二人共、ほどほどに」


「ほほっ、懐かしい光景ですな」


縁側ではサーラが茶を飲み、オイゲンが見守る。

すると、部屋の奥からセレナ様がやってきた。


「何やら騒ぎが……きゃぁぁ!? 二人共、何をしてるんですか!」


「これはセレナさんではないか。いや、この愚息に教育を行っているところじゃ」


「ちょっと待っててくれ。今すぐ、このクソ親父を黙らせる」


「そ、そういうことじゃなくて! 二人共病み上がりなので大人しくしてください!」


「「いや、しかし……」」


「しかしもカカシもありません!」


そのあまりの迫力に、俺と父上はおし黙ってしまう。

そもそも命の恩人である彼女には頭が上がらない。

二人揃って正座をして反省するのだった。





その後、我に帰ったセレナ様に謝られる。


「ご、ごめんなさい! 私ったらなんて事を……」


「いえ、これくらいで良いかと。この馬鹿……おっと、アスカロン家の男には」


「ん、アホ二人を止めてくれて助かった」


「「おい??」」


なんとも酷い言われようである。

しかし、事実なので何も言い返せない。


「えっと……いつもこんな感じだったのでしょうか?」


「割とそうですな」


「ん、いつもこんな感じだった」


「ふふ……これも、一つの家族のあり方なのですね」


確かに俺と父上は言葉で交わすより拳で語る方が多かった。


幼少期の頃から毎日のように父上と取っ組み合いをして、その度にボコボコにされてたっけ。


こうして、我が家に日常が戻ってきたのだった。

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