第19話 置かれてる状況
推しの笑顔……危うく昇天するところだった。
自慢じゃないが、戦場でも膝をついた事はないというのに。
普段はアイクの意識が強く気にしない場面が多いのだが、ああいう不意打ちを食らうと前世の意識が強くなる気がする。
「アイク、大丈夫ですか? 無理はしちゃダメですよ」
「あ、ああ、別に平気だから気にするな」
「ん、単純にセレナさんにノックアウトされただけ。兄さんを倒すなんて、お父様以来で凄い」
「は、はぁ……良く分かりませんが、平気なら良いのです」
セレナ様は自分の笑顔の破壊力がわかってないのか、再び首を傾げる。
これ以上一緒にいてはまずいと思い、俺は震える膝を押さえて立ち上がる。
そして、急いで自室に避難するのだった。
自室に戻ったら気を取り直して雑務をこなす。
と言ってもアイクは得意ではなく、常にオイゲンが補佐していた。
ある程度片付けた後、お茶を飲みつつ雑談に入る。
「オイゲン、国境はどうなってる?」
「はっ。報告によれば、奴等は引き返したそうです。おそらく、アイク様が姿を見せたからでしょう」
「そうか、それなら良い」
バルド様が帰った日に、俺は北にある国境に視察に行った。
すると、俺がいないと思っていた奴等は慌てて引き返していったな。
……ん? 今、何かが引っかかったな?
「アイク様? どうかしましたかな?」
「いや……すまんが、オイゲン。改めて、我が国が置かれてる状況を説明してくれるか?」
「ええ、構いませんが……あまり、そういったことには興味がなかったのでは?」
「確かにそうだが、俺も成人してから一年が経ったしな」
基本的にアスカロン家の男は戦いにしか興味がない。
無論領地を守るために最低限のことは覚えるが、まずは圧倒的な強さが求められる。
アイクも例に漏れず……どころか、年齢もあるだろうが全く興味がなかった。
本来なら成人した後に学校に行って学ぶ予定だったのもある。
ただ今はセレナ様のこともあるし、きちんと確認をしておかなくては。
「ふむふむ、これもセレナ様の影響でしょうか……良いことです。では、簡単な問題形式にしましょう。まずは我が国の名前と場所、それと北と南にある国をお答えください」
「名前はデュランダル王国で大陸の東中央部分を支配する国、北には蛮族であるウェルダン帝国と南にある魔法使いの国フレイヤ王国がある」
「正解です。西にも国いくつかありますが魔の森を挟んでおりますので、今は気になさる必要はございません。さて、我が国のウェルダンとフレイヤとの関係は?」
「北のウェルダンは山と荒地が多く、森や自然がある我が国に攻め込む敵国だ。フレイヤ王国は海に接しており、我が国とは交易を行い関係は悪くない」
「ええ、大体合っております。と言うより、しっかり押さえているではありませんか」
ふむ、どうやらこれくらいの知識でも充分らしい。
この世界の教育基準はそう高くはないし、これくらいはゲームを見てたからわかる。
ただ俺はヒロインが好きではなく、セレナ様が断罪されるところからは辛くて見てないのだ。
結末については聞いたが、その後に何かイベントがあったとしたら……それは未知数だ。
「そうか、なら良い」
「ほほっ、安心しました。では、ついでにアスカロン家については? アルヴィス様がお倒れな今、僭越ながら私にお聞かせください」
「後は我が家の役目か……建国記より王家を支えた一族にて辺境伯家、王の側近や将軍を望まれるも裕福な暮らしを捨て国境を守ることを決めた誇り高き一族だ」
「ええ、その通りでございます。最後に……その代わりの褒美として王家がアスカロン家に与えたものは何でしょうか?」
「それは……アスカロン家が望んだならば、それを王家は最大限に叶えよう」
「正解ですな。ただし、それが使われたことは一度しかないと。ですが、それくらいの恩義があると言うことです」
今回俺は陛下にお願いしたが、それはそのうちには入らない。
つまり、願うならそれ以上のモノということだ。
そこでお昼の鐘が鳴り、午前の仕事は終わりとなる。
俺は王家との制約について考えつつも、部屋を出て行くのだった。
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