第12話 オイゲン視点
やれやれ、手のかかる当主ですな。
しかし、アルヴィス様に代わって私が面倒を見なくては。
……いや、アルヴィス様の時も大変でしたが。
どうしてアスカロン家の男というのは、こうも朴念仁が多いのか。
「まあ、それが良いところでもありますかね。ただ、放っておくと戦いにしか興味がいかないのが困りますなぁ」
「オイゲンさん、セレナ様と話してきた」
そんなことを考えていると、サーラ様が先程いた部屋に戻ってくる。
あの後二人で少し話をして、作戦を立てていた。
そう、目的はアイク様のお嫁探しである。
あの朴念仁は放っておくと、女っ気が全くないですから。
本人は全くモテないと思ってますが、単純に近寄り難いだけだというのに。
「ありがとうございます。それで、セレナ様はどのような感じでしょうか?」
「ん、感触は悪くない。そもそも兄さんに助けられてるから、好感度は高そう。ただ、それ好きなのかはわからないけど……私の勘だと、アレは脈アリとみた」
「ふむふむ、あちらがそうであるなら問題はなさそうですね。アイク様の方は言わずがもがなと言ったところですし」
「ん、兄さんはデレデレしてた。あんなこと、滅多に……ううん、初めてみたかも」
我らとてアイク様の望まぬ結婚はしたくはない。
しかし今回は稀に見る……いや、もしかしたら一生に一度あるかないかのチャンス。
ここを逃すという手は、私とサーラ様には無いのです。
幸いにして、セレナ様も悪感情を抱いてないですし。
「もしかしたら、初恋なのかもしれませんね。王都に行き何やら様子が違うとは思いましたが……」
「ん、確かに雰囲気変わった。雄々しい感じが緩くなって、人当たり良くなった気がする。私たちは慣れてるけど、家臣とか使用人は兄さんに怯えてたし」
「有り余る覇気が漏れてしまっていましたからね……無論、その責任感がそうさせたのでしょう」
僅か十二歳で戦場に出て、十四歳で跡を継がざるを得なかった。
本来なら学園に通う歳だというのに、国境を守るために戦う日々。
自国からは英雄、他国からはバーサーカーと呼ばれ、調子に乗らない方がおかしい。
「それは私達の所為でもある。兄さん一人を頑張らせすぎた。でも頑固だから言うこと聞かないけど、セレナ様には弱そう」
「ですな。アイク様に物申す女性などおりませんし……では、そのように手はずを進めましょう」
「ん、お願い。私は兄さんの方に行ってくる」
「私はバルド様ですね」
二手に分かれ、私はバルド様の部屋を訪ねます。
大事な話があると言い、中に入ってテーブルに着く。
「お時間を頂き感謝致します」
「いや、お世話になってるのはこちらだ。それで、大事な話とは?」
「非常に申し上げにくいのですが、セレナ様についてです。我が主人の側に置くということは、側から見たらそういうことだと思われるのは承知で? そして、それは狙ってやっておりますか?」
先代が寝たきりな今、私が確認すべきことだ。
アイク様やサーラ様も立派だが、交渉事は流石に荷が重い。
「そう思われても仕方がないだろう……正直なところ、父親としてはそういう欲がないとは言えない。あの子に責任はないが、嫁の貰い手はろくな男がいないだろう」
「王太子に婚約破棄に、オズワルド公爵に喧嘩を売った形ですな。そのしわ寄せが、うちに来るとは?」
「それもわかってはいる……そしてすまないことも。ただ娘は、本当に役に立ちたい思ってきたことは信じてもらいたい」
そう言い、たかが執事長である私に頭を下げてくる。
無論、私が寝たきりであるアルヴィス様の名代だとわかってのことだが。
それでも、誠意は充分に伝わってきた。
ならば、後はこちらが見せる時。
「はい、それはもちろん。そして、厳しいお言葉申し訳ございませんでした」
「いや、まだ幼い当主を支える者として当然であろう」
「そう言って頂けると助かります。では、バルト様としては何も問題ないということでよろしいでしょうか?」
「うむ、うちとしては願ったりではある。しかし、アイク殿は……」
「アレは照れてるだけなので平気です。ただ、頑固な部分があるので、これから確認にまいります」
私は挨拶を済ませ、庭にいるアイク様の元に向かう。
そこでは一心不乱に剣を振るアイク様と、それを眺めるサーラ様がいた。
私に気づくと、アイク様が剣を振るのを止めて振り返る。
さて、どう説得したものか……まあ、やってみるしかないですな。
「オイゲン……セレナ様をうちに置くぞ」
「……はい?」
その目は決意に満ちていました。
それこそ、全てを賭けるという気迫。
一体、何が起きたのでしょう。
サーラ様を見るが、首を横に振る……ということはサーラ様に説得されたわけでもないと。
「何を惚けている?」
「……いえ、先程とはまるで態度が違うので」
「そ、それは……彼女は王都に帰ったら再び狙われるだろう。それは俺の騎士道に反するし、ここなら刺客も滅多に入れまい。何より、助けを求める声を無視はしない……俺が守ってみせる」
……これは良い意味で計算違いでしたか。
いや、主人を見誤った私が悪かったですな。
そして、それはサーラ様も同じようです。
「兄さん、よく言った」
「ええ、それでこそアスカロン家の男です」
「……そうか」
そして再び剣を振る。
まるで、来るべき敵からセレナ様を守るために。
……改めて、私も全力で協力させて頂きましょう。
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