私たちがリード! ~動物霊が視える私と幽霊が視えるイドちゃん~
大河井あき
始まりはここから
第1話:視えているだけ。今は、まだ
みんなといても、ひとりぼっち。
始業式が済んで、高一のときとは教室と教科書くらいしか違いのない授業が四限目まで終わって、昼休み。
食堂の隅の六人席で
でも、私がしているのは、友達未満のクラスメイトたちが矢継ぎ早に展開する話に相槌を打ったり、あいまいに返事したりすることだけ。
コスメインフルエンサーの新着動画。
お気に入りだというファッションブランド。
芸能人のプライベートなゴシップ。
最近流行っているらしいアニメ。
人気急上昇中のアーティスト。
分からない。全くってほど分からない。
ただ、好きだからというよりも、共有するために話題を持ってきて披露し合っているように思える。同調しておけば話にはついていける、そんな程度だ。
それでも、分かち合えるものがあるというのはちょっと、ううん、けっこううらやましかった。
もし、本当に理解してもらえるのなら――。
教室で今も飛び回っているに違いないスズメバチの姿が思い起こされる。
先生の声を邪魔するのに十分な羽音を出していたのに、騒ぎになるどころか四月特有の新鮮な緊張感を保ったまま授業は進んだ。
理由は至極単純。
私以外、誰一人として気付いていないから。
――ねえ、私、動物霊が視えるんだ。
……誰が信じてくれるんだろう。
寝言、
変人扱いされるくらいなら、偽物の目で周りに合わせて過ごすほうが楽。
楽。楽。楽。
言い聞かせて、理解されることを諦めて、空気のように生きていくって。
そう、決めたのに。
「
「え?」
目を向けたのは食堂の入り口付近。忘れもしない姿がそこにあった。
モデルさんのようなすらりとした高身長で、風紀を重視したらしいオーソドックスなセーラー服がむしろいかがわしく見えてしまうほど。
髪は清流に浸してきたような
「あっ、リーちゃん先輩、お久しぶりです!」
通る声。入口の対角線上にいる私に向けて小さく手を振っている。かと思えば、優雅な早足で背後に来た。ただでさえ座っているのに、小柄な私との高低差が大きくて背中を反らさないと顔が見えない。
「私、ちゃんと宣言どおり入学しました」
「う、うん。おめでとう」
「だから、もう一度お誘いさせてもらいます」
上ずった声、上気した頬、真剣な眼差し。
待って、その言葉は誤解を……!
「私のパートナーになってください!」
……間に合わなかった。
食堂は一瞬静まって、ややあってから、ひそやかになりきっていない黄色い声が飛び交った。クラスメイトたちを見回すと遠くのニュースより近くのハプニングといった様子でニマニマと笑みを浮かべている。
違う、そういう意味合いじゃない。けど、弁明できることじゃないし、他の人がいるなかで話せることでもない。どうしよう。ひとまず、この場ではうやむやにしておかないと……。
「えーと、みんながいるから、返事は明日の昼に、ね?」
口に出してから言葉選びを間違ったことに気付く。顔から血の気が引いていくのと対照的に、黄色い声たちは瞬時に
誰も想像していないんだろうな。このパートナーって言葉に桃色をした意味なんてないこと。
私とは少し違うけど、彼女もまた、――視える人だってことも。
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