【2分で読めるシリーズ】第3弾『女神カード』女神の恩返し――選択した3枚のカードの使い道とは⁉︎
いろは
【2分で読めるシリーズ】第3弾『女神カード』女神の恩返し――選択した3枚のカードの使い道とは⁉︎
美和が死んでしまった――。
私は、命を司る女神。
そして横にいるのは、可愛いイタチ姿のお目付け役。
天使――ペト。
常にふわふわと小さい体を目の前にちらつかせていて、無意識に手ではたき落とす。
「痛っ! 暴力女神――さっさと交差点から出やがれ」
「口悪っ! 天使長様に言いつけるわよ」
「……うぐぅ」
先日、この口の悪さを天使長に向けてしまい、ペトは長い反省文を書かされたばかりだった。
私は何をやっているかと言うと――
休日のスクランブル交差点でぐるぐると出れずにいた。
「そこ、右によけて……そこ、前です。
――ああ! 肩がぶつかったくらいで方向転換しないで」
ペトの案内も虚しく、こんなことをずっと続けている。
「ああ! キリがない……例のカードを使うわ」
「もうですか? 3回しか使えないのに?」
構わずポケットから無地の白いカードを取り出し――食べる。
「まっず……改良の余地ありね」
味はともかく、体に変化が現れる。
やや発光している体が、スーッと青みがかり、街の色と同調していく。
「……うわ、びっくりした。すいません」
周囲の目には
勝手に周囲の人が避けてくれるようになった。
人波地獄からようやく抜けられ、大きく深呼吸をする。
目的が達せられると変化の姿はリセットされ、
震える手をギュッと握り締め、目的地へ足を進める。
「女神様……瞬間移動すればいいのでは?」
「……無理よ。降格したんだもの」
女神にもランクがある。
世のため人のために徳を積むと女神メーターが上昇する。
満タンになるとひとランク上がるシステムだ。
これがまた、なかなか上がらない――クレーム続出だ。
使える力の強さ、種類はもちろん、女神管理本部で利用できる機能制限も変わってくる。
「そうだった……座標指定の機能も使えないって、あんた――3ランクも降格したんかーい!」
ペトの言葉に反論できず、そっと視線を逸らす。
私は、人間界に降りる条件として降格を申し出ていた。
目的地への瞬間移動も使えない。
管理本部で目的地を自動設定してくれる移動装置も使用できない。
思い出の地にただ降り立つだけ。
その時、泣いている迷子の子供を視界の端で捉えた。
そのまま走り抜け――戻る。
「……女神様! 急いでるんですよね?」
「そうよ! でも――今日の私は、この子を見過ごせないのよ」
ペトの苛立ちに苛立ちで返す。
「……お腹、すいた」
目の前にしゃがみ込むと、その子は切ない目で見上げた。
昔の自分と重なって見え、胸が痛む。
パタパタと服の上を探るが、ポケットに変化のカード2枚しか持っていない。
「無銭飲食、ダメ!――絶対」
「――するわけないでしょ!?」
さすがの天使。弱い心を叩きのめしてくれる。
わぁぁ――パチパチ――
音の方向に顔を向けると、大道芸人がジャグリングをしていた。
私は目を細め頷くと、迷子の子を抱きかかえて広場へ走った。
帽子の中には小銭が少し――
「泥棒、ダメ――」
「だから、しないって!」
私はカードをまた一枚飲み込んだ。
迷子を帽子の側に座らせると、大道芸人に話しかける。
「私と勝負しましょう。私が勝ったら――お金を少し分けて」
観客が沸き立つ。
断るタイミングを失った大道芸人が、仕方なくボールを渡した。
「女神様、できるの?」
「任せて!」
大道芸人の号令と共にボールが宙を舞い始める。
「1……2……3……4……」
観客はカウントをしながら手を叩いて見守っている。
私は調子に乗って片足になったり、歩き回ったりと場を盛り上げた。
帽子の側で楽しそうにはしゃぐ迷子を見た観客が、微笑ましく金を落としてくれる。
「こんなに稼いだことはないよ! はい、お礼――僕と組まない……あれ?」
お金を受け取ると、変化の効果が切れた。
私はその足でコンビニに寄り、ご飯を買って迷子に食べさせた。
「結局――その子が一番儲けたんじゃないですか?」
「言わないでよ。私だって、薄々気づいてるんだから……」
食べ終わるのを見届けると、迷子を連れてまた走り出す。
目的地に着いたのは黄昏時だった。
葬儀は完全に終わり、静けさだけが残る。
縁側に、老年男性がポツンと座っていた。
横には心配そうに寄り添う老女。
「――美和」
声をかけると、彼女はそっと顔を上げた。
「……お迎えね」
そしてまた、男性を柔らかな瞳で見つめる。
「大丈夫かしら……この人。私たち、子供もいないの。去年、飼い猫を亡くして悲しんでいたのに……」
美和はつらつらと言葉は発するが、側から離れようとしない。
「……幸四郎に伝えたいことがあるなら――力を貸すわ」
「できるの?――ある、あるわ!」
私はポケットから白いカードを取り出した。
「最後のカード……あんた! 帰れなくなるぞ」
ペトの口を片手で押さえ、無造作に背中に隠す。
ごめん、ペト……。
そして、カードを美和に渡した。
「食べて。姿が見えるようになるわ」
美和は怪訝そうにカードを眺めていたが、決心したように目を瞑り、喉に流し込んだ。
すぐに効果が現れる。
「――美和さん!」
驚いた幸四郎の目に涙が浮かび上がった。
やがて、ボタボタとズボンに染みを作る。
「……病院に、間に合わなくてすまない」
「急だったものね。私こそ、ごめんなさいね」
「仕事ばかりで、構ってやれず……」
「幸四郎さん……」
美和は緩やかに首を振ると、幸四郎の手を取り、ふわっと笑った。
「私は、とっても――幸せだったのよ」
その一言で、美和の姿はかき消えた。
再び静寂が訪れ、幸四郎は膝を折って項垂れる。
聞こえるのは彼の咽び泣き――そして、秋を知らせる虫の声だけだった。
そのとき、女神の腕から助けた“迷子“が飛び降りる。
「にゃー」
迷子の子猫は、幸四郎の足元へ擦り寄った。
幸四郎は涙を流したまま、優しく微笑むと子猫の頭を撫でた。
「……腹が空いてるか?」
「にゃぁ」
「そうか。今、食べさせてやる。風呂に入れて、首輪も――」
ポケットから取り出した猫の首輪を見せる。
「タマ」と刺繍されている。
「うちの子に、なろうな――タマ……」
そう言うと、幸四郎は子猫と遺影を柔らかく抱きしめる。
子猫が元気に「にゃぁん」と返事をした。
「ありがとう。いっぱい頑張ったのね」
「美和――」
「あの人も、芸がないわね。あなたと同じ名前なんて」
美和は、靴を脱いでいる幸四郎を眺めながら呟く。
「あなたは飢え死に寸前の私を拾ってくれた。幸四郎は、交差点で轢かれた私を最後まで抱きしめてくれた。
――今度は私の番よ」
「そう――えらいわね。タマ」
温かな笑顔の美和に撫でられると、私は一瞬だけ白い猫の姿に戻る。
幸四郎が作るねこまんまはいつも熱かった――
食べれないで鳴いていると、二人が順番にフウフウしてくれた。
嫌がる私を風呂に入れるのは幸四郎――
いっぱい引っ掻いた。
美和のお手玉をいつも目で追ってはたき落とした――
天界で美和を思い出して練習した。
幸四郎が出店で買ってきたセンスのない首輪――
美和が可愛く刺繍を入れてくれた。
その他にも、たくさんの想い出が溢れ出す。
それは、二人に可愛がられたタマの私――。
美和はひと足先に天界へと昇っていった。
「あー、人間界で立ち往生か……」
「す、すぐ徳を積むわよ……ん?」
ポケットに違和感を感じて手を突っ込む。
――青いカードが一枚!
ペトと顔を見合わせてハイタッチする。
「増えた! レベル上がったー!」
「これで、帰れますね」
意識せずした行動が、他人には重要な「良い事」に変化する――
世の中って、そう廻っているのかもしれない。
女神は今日もひとつ、徳を積んだ。
【2分で読めるシリーズ】第3弾『女神カード』女神の恩返し――選択した3枚のカードの使い道とは⁉︎ いろは @Irohanihohetochan
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